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「ねぇ、今なんて言ったの?」
その声は思いのほか静かでまるで次の甘い言葉を告げるように優しかった
「ねぇ」
彼が足元に手をつくとその重みでベットが軋む
「...?」
なんだろう...
何かが違う...
なぜなのかわからないけれど、さっきまで暖かかったはずの身体が急速に冷えていく気がした
...すると次の瞬間、突然ものすごい力で首輪を掴まれて身体ごと引き寄せられた
「がはっ!」
思わず咽せるように咳き込んだ少年の耳元で彼の怒鳴り声が響く
「今、なんて言ったのかって聞いてんだよ!」
「ぎ...がぁ..」
首輪は締め上げられ、それを掴んだ彼の指が少年の喉に食い込み息ができない
そして体が宙に浮いたかと思うと勢いよくベットから投げ落とされて少年は床に転がった
「ぅぁ...」
身体を強く打ち付けてすぐに起き上がることができなかった
突然すぎてなにがなんだか分からない
けれど少年の心臓だけはこれから何かが起きることを本能的に察知したのかもしれない
身体が跳ね上がるほど脈は打ち鳴らし手足は抑えられないほど震え始めていた
少年は痛む身体を無理やり起こすと彼を見上げて腕を伸ばした
「ぁ...」
けれどその腕は伸ばしかけて彼に触れる直前で動きを止めた
...なぜなら笑っていたからだ
彼は少年を見下ろしながら肩を震わせて吹き出すように笑っていた
なんで笑うんだろう?
それは異様な光景で少年はその不気味ともいえる彼の態度に背中が凍り付くのを感じた
「あー!ほんと笑える!」
いつまでも収まらない笑いに彼はお腹を抱えて苦しそうしながら自分の目尻を拭っていく
しばらくすると彼は落ち着きを取り戻し、はぁ...と一つ疲れたようにため息をついた
そして少年の目を睨むように見据えると歪めた口を開いた
「お前ってさ、一体どこまでバカなんだよ?」
その声は今まで聞いたどんな声よりも重低に満ちていた
「う...?」
言われたことが理解できなくて首をかしげると彼の手は大きく振り下ろされパンッと少年の頬を鳴らした
じんじんと頬が熱くなり少年の白い肌に彼の手痕がくっきりと浮かび上がる
けれど少年は未だに自分に何が起きているかわからなかった
なぜ自分は今彼に見下ろされているのか
なぜ頬に痛みが走ったのか
わからないからそのまま自然に彼へと腕が伸びていく
すると彼は伸ばされた手を握るように掴んで力を込めた
「いっ...!」
あまりの痛みに少年は慌ててその手を引っ込めようともがくが彼の力は強すぎてびくともしない
ギリっと力強く握られた手は次第に感覚が薄れていく
「う...ぅぅ...」
「なぁ...お前自分が何したか分かってる?」
彼は強く握りしめたまま少年に向って声を荒げることなく淡々と語りかける
「ねぇ、俺さ、優しくしようって本気で思ったんだよ?いろんな事教えて、いっぱい遊んでさ...それがお前にとって一番いいことだって思ってた」
「...?」
「でもさ、もういいや...もう疲れた」
そういって掴んでいた手を放すと今度はそこから少年の小指だけ掴んで握り直す
「あっ!あっ...あっ...」
掴まれた小指は彼の体重を一身に受けてミシミシと音を立てて軋んでいく
痛みはそこの一点に集中して少年の身体から一気に汗が噴き出した
「もう終わりだよ?分かる?」
終わり...?
...なにが終わりなの?
顔を歪めながらその意味を考えようとしたが痛みが強くて何も考えられない
痛みに耐えながらただ彼の顔を見つめるしかできなかった
すると彼は少年の顔をまっすぐ見据えてもう一度、今度は決定するように告げた
「もう終わりだ」
それと同時に小指は勢いよく外側へと曲がりバキンッと渇いた音が部屋に響いた
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