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冷たいタイルの感触
体温が奪われて冷たくなっていく身体
寒い...
寒さに耐えかねてぼんやりと目を開けるとそこに見えたのは真っ白の世界
あれ...?ここ...どこ?
少年は目だけをゆっくり動かして辺りを見渡してみたけれどそこには何もなかった
あぁ...そうか...ここは...
少年はしばらく部屋の中を見渡してここがあの真っ白な部屋だとやっと理解することができた
けれど何故自分がここにいるのかは到底理解することができない
床にへばりついた身体を起こそうとすると鉛のように重く、少し動かすだけでもあちこちが痛かった
それでも何とか身体を起こして壁を背にして寄りかかると自分の着ている服に赤い染みが飛んでいる
「...?」
未だに自分に何が起きたか分からない少年は恐る恐る服を掴もうと手を伸ばすと自分の手にはもっとたくさん血がついていることに驚いた
手のひらを自分に向けて開いてみると血がべったりと付いていて、なぜか片方の小指がピョコンと指の列から外れるように外側を向いている
なんだろう...おかしいな...
不思議に思った少年がその指に触れた瞬間、体が飛び跳ねるほどの激痛が走る
「いっ...!!」
あまりの痛みに心臓が跳ね上がりぼんやりとしていた意識が一気に晴れていった
そうだ...そうだった...
彼を怒らせてしまったことを思い出して思わず顔を歪めてしまう
またやってしまった...また怒らせてしまった
謝らないと...早く謝らないと
でも...謝るってなにを?
少年は自分が無意識につぶやいてしまった一言の自覚がなかった
だからなぜ自分がまた彼を怒らせてしまったのか分からない
「怒っているから謝る」理由は分からなくても彼との生活はそうやって成り立っていた
彼の理不尽な怒りも少年にとっては自分がしでかした悪いこと
何度も言わされた「ごめんなさい」は少年が言える唯一の彼への言葉だった
それなのに...
なぜ謝らなければいけないの?...少年はそんな疑問を胸に抱いていてしまった
疑問を持つこと、何かを考えること、何かを選ぶこと、何かを願うこと...それらをすべて取り上げられていた少年がこんな疑問を抱くことは今までなかった
けれど気づかぬうちに椎名と過ごす日々が少しづつ少年の思考に変化をもたらすようになっていた
毎日は楽しくて暖かくて人の手はこんなにも優しいことを知った
ものには名前があるように物事には理由があることを知った
椎名が教えていたことは一見無駄のようだったが、根気強く教え続けたことは少しづつ確実に少年の頭に残っていたのだ
だから今まで思わなかったことを思うようになった
自分は何もしていないのになぜ怒られたのだろう...?
その思考は彼が一番恐れていたこと
何かを知ればほかのものが知りたくなる
そのうちに一つまた一つと少年の頭の中を自分以外が占めていく
そのうち少年の中から自分が追い出されてしまうのが彼が一番恐れていたことだった
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