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「はい、バンザーイ」
彼は無造作に服を脱がせるとバスルームに放り投げた
転がるように床に手をついた少年を抱え上げてバスタブの縁に座らせる
夢が夢じゃなくて...そうじゃなくて...
怖くない...怖くない...鳥肌を全身に浮かべながら自分に言い聞かせるように下を向いて目を閉じた
現実を直視することはまだできない
突然、ヒヤッとした感触がして驚いて目を開けると彼が少年のモノに触れていた
「これ覚えてる?」
「...?」
少年が見せられたのは細長い管のようなもの
クスクス笑いながらプラプラと目の前で揺らして少年の記憶に語りかける
なんだっけ...それ...なぁに?
知っているような分からないような思い出したくないような...そんな気持ちが沸いてくる
「前にやろうと思ったんだけど逃げられちゃったんだよね」
そう言いながら掴んでいた少年の先端にツプッとそれを差し込んだ
「んぁっ!やっ...」
身構えるより早く突き立てられた管が鈴口で迷いながら侵入してくると薄い壁を激痛が走った
「やぁっ!!」
いきなりの激痛に少年は腰を上げて彼の手を払いのける
パンと手を弾いて自分の身を守るように縮こまってしまった
「はぁ...はぁ...はぁ...」
「やっぱり逃げちゃうんだよな、そんなに痛い?」
不思議そうな顔で彼は少年に向って首をかしげる
「ぅ...ぅぅ」
少年は今の激痛でそれが何なのか思い出した
痛くて我慢できなくて、今みたいに抵抗して...蘇るのは怯えた自分とそのあとの事
その後の彼はすごく怒っていて目が吊り上がって怖かったのを覚えてる
思い出したくはなかった、気づきたくはなかった
目の前の彼がその時と同じ顔をしているということに...
「あっ...」
たじろいだ少年の身体は次の瞬間、壁に押し当てられていた
ガンガンと頭を激しく打ち付けられて目の前の壁が赤色に染まっていく
クラクラして膝から崩れるように床に座り込んでしまうと今度はその上から冷水が降ってきた
「ひゃぁっ!!」
それは一瞬で心まで凍えてしまうほど冷たくて泣き叫ぶこともできない
「ゲホッ...ゴホッ...」
喘ぐように息を吸い込んでまるで溺れているようだった
もう嫌だ...もう嫌だ...こんなにつらいのはもう嫌だ...
しばらくするとキュッと蛇口をひねる音がして冷水が止まった
息つく暇もなく少年は腕を強く掴まれてまたバスタブの縁に座らされる
ヒュッと目の前に彼の手が伸びてくるのが見えて反射的に目をつぶってしまった
”あぁっ!また殴られる!”
そう思ったのに...次に少年を待っていたのは頭をそっと撫でる彼の手だった
「痛かった?」
「...?」
穏やかな声色に強くつぶった目を開けると心配そうにのぞき込む彼と目があった
「冷たくなっちゃったね」
そう言いながら彼は少年を自分の胸元にポスンと引き寄せると凍えた背中を擦った
「ぁ...?」
さっきまでとは違う優しい手、温かい胸元に抱き寄せられると冷え切った体に一気に体温が戻ってくる
なんで...?なんで...?
さっきまであんなに怒っていたはずなのに今は抱きしめてくれている
全然違う態度に戸惑いを隠せず、呆けたような少年を緩く抱きしめて言った
「ねぇ...シャボン玉やってあげようか?」
「...?」
「シャボン玉、好きでしょ?」
...シャボン玉?...シャボン玉...うん...そう...好き...好きなの
プカプカ浮かぶきれいなシャボン玉
ここで彼に教えてもらって...楽しくてうれしくて、嫌いだった場所が大好きになった
彼はゆっくり少年から身体を引き離すと冷たくなった頬に触れて濡れた雫を拭っていく
「頑張れたら終わりにしてあげてもいいよ」
おわり...?おわりってなぁに?
彼の瞳の動きを追ってその意味を必死に考える
「頑張ってくれたらもう終わり、シャボン玉もしてあげる」
それは彼からの思いがけない希望の光
ねぇ...ほんと?頑張ったらおわりになる?
もう許してくれる...?
微笑みながら頭を撫でられて、傷んだ傷口にそっと触れる指先に、強張っていた力が抜けていく
もう怖いのも痛いのも嫌だった...けれど一番嫌なのは許してもらえないこと
頑張るから...頑張ったらまたシャボン玉を見せてくれる?
優しく笑って、抱きしめて、また...名前を呼んでくれる?
「どうする?頑張れる?」
彼がもう一度聞いた時、少年は凍える身体を抑えながら縋るような目で小さくコクンと頷いた
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