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言い訳:紀田翼
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耐えているのだろうか、目を真っ赤にして拳をふるふると握りしめて、まっすぐ僕を見つめる橋倉君。
その隣で、ずっと俯いている紀田くんを見た。
「紀田君は、僕に何か言いたいこととかある?」
全部が全部、橋倉君みたいにうまくいかないってわかってる。
けど、ちゃんと聞きたい。
「私、は……最後まで。」
そう、ゆっくりと口を開いた。
「最後まで、あなたを信じることが、できませんでした。最低なのは、私の方です…」
成に、と続ける。
「成に蓮が全部じゃないって言われた時だって、強く否定したんです。
私にとって、私にとってあの時は蓮が全てだったんです。
蓮の前では無理に笑わなくていいし、笑う時は、心の底から笑えた。
蓮がいたから、幸せだったんです。」
知らなかった。
紀田君にとって、笑うということが苦になっているだなんて。
彼の笑顔のほとんどが本気でないことは、なんとなくわかっていた。
けれど、僕が口を出すことではないと、突っ込まなかった。
もし僕がそのことに対して突っ込んでいたら?
彼は僕に執着しただろうか。
いや、多分。
紀田くんが惹かれたのは大原君そのものだ。
なら僕は、彼のようにはなれなかっただろう。
大原君だから、起こったこと、か。
「なら、僕は君にすごく酷なことをしたんだね」
紀田君から大原君を取ってしまうこと。
それは、今の僕から二ノ宮君を取ってしまうことと同じだ。
好きな人と離されるなんて、僕には耐えられないだろう。
「君を、苦しませてしまってるんだね」
「ちがっ、…!
た、確かに蓮がいなくなったと聞いて、最初は、その………あなたを憎みました」
くっ、と僕の喉がなった。
憎んでいる、と聞いた時、どうしようもなく胸が痛んだのはなんたる筋違いか。
紀田君に酷いことをしたという事実が、改めて突きつけられたようで。
「あなたの部屋に、行こうとしたんです。
けれど、ドアを開けると成がいて。
いい加減にしてくれと、泣いていたんです。
私は成が泣いたことに驚きました」
少しだけ、酷いなぁと橋倉君が笑ったのが聞こえた。
「届かないんだと、成は言いました。
私たちの思いは蓮には届かないのだと。
このままでは、私たちが耐えられなくなってしまう。
いい機会だから、全部忘れてしまおうと。
蓮への思いに蓋をして、あなたに会いに行こうと思いました」
「そうだったんだ…」
「当然、成にもそう言いました。
けど、俺たちが会長にしてきたことを忘れたのか、と成は言った。
私は、忘れるべきところを間違ってたんです。
その時多分、もうあなたには会えないだろうと思いました。
その時に心が苦しくなったのは、おかしいですよね。自業自得なのに」
少しだけ、嬉しかった。
僕に会いに来ようと思ってくれたことが。
本当に、きっかけを作ってくれた2人には感謝しなければならないだろう。
「会長。本当、すみません。
全部、全部すみません。
リコールだって覚悟してたのに、私たちを嫌わないでいてくれた。
あなたは、優し、すぎますっ」
橋倉君のように、謝り続ける紀田君はいつしかごめんなさいと言っていて。
謝る時は必ずすみませんと言っていた彼がなんだか、年相応の男の子に見えた。
「まだ、僕を憎んでる?」
こういう聞き方はズルいと自分でも思う。
「そんなわけない!あなたが私を憎んでもいいくらいなのに!」
「よかった。」
「え、?」
「また、一緒に居られる」
え、え、と紀田君はうろたえる。
「それは、おかしいですよ…。
私たちはリコールされるべき、です。会長の側にいれる資格なんてない」
「嫌だよ」
「かいちょ…」
「これはね、僕の我儘なんだ。君たちがなんといっても、僕は君たちをリコールなんて、しない」
できないも、入っているけれど。
「でも、委員長は…」
二ノ宮君、かな。
「大丈夫だよ。僕だって男だからね。
譲らないものはあるよ」
そう笑って言うと、紀田君は泣き崩れた。
これは、二ノ宮君の受け売りだけど。
「笑っても欲しいけど、僕の前で泣いても欲しい。それだけ心を許してくれたって、ことだから。」
僕がそういうと、目の前の紀田君は何度もなんども頷いた。
僕は少しでも、彼らの救いになれただろうか。
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