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勘は鋭い方なんです多分
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ん、と意識が浮上する。
頬に、なにかもふもふしたものが当たっている。
ゆっくりと目を開けると、視界に入ったのは、黒。
一瞬、なんだと驚いたけれど、その正体に笑みがこぼれた。
「あ、まさとくんだ」
すりすりと額を擦り付ければ、すぐ近くから「おい」と笑いをかみ殺したような声が聞こえた。
「俺はここだぞ」
「あ、二ノ宮君……お、はよう」
「そいつにはまさと君なのに、俺は二ノ宮君なのか?」
そう、僕がすりすりしていた相手。
それは、僕が二ノ宮君に誕生日プレゼントであげた犬のゆいぐるみ。
たしか、リビングのテーブルの上に置きっぱなしだったから二ノ宮君が持ってきてくれたのだろう。
「だって、こっちのまさと君は可愛いから」
そう笑うと、むにゅっと顔になにかを押し付けられる。
「なら、俺も遥って呼ぶぞ?」
それは、茶色い犬のぬいぐるみ。
「ど、どうぞ可愛がってやってください…」
「あぁ、なら十分に可愛がらなきゃな」
僕に向けられた言葉ではないとわかってはいるけど、なぜか僕のほうが恥ずかしくなってしまう。
それから逃げるように、目の前にあるまさと君ーもとい、黒犬の顔を撫でまくる。
「…………可愛い」
動かないけれど、その愛くるしい顔に思わずポツリと言葉が漏れた。
直後に、ぶはっと吹き出す声も聞こえた。
「そんなにか」
「…うん、犬、好きなんだ」
「俺にとっては犬も可愛いが、それを見てるお前が一番可愛いな」
「っ、いや、……んー」
そんな恥ずかしいことをサラッと言わないでほしい。
思わず顔を枕に埋めた。
「……ん」
「どうした?」
顔を枕に埋めていた僕が、突然顔を上げたのを見て、茶色の犬で遊んでいた二ノ宮君が僕を見る。
それは、ふと、本当にふと思ったこと。
「桜月君ってさ、好きな人いるの?」
何故今か。
それはわからないけれど、ぽんっと頭に出てきてしまったのだからしょうがない。
「直人?」
「うん」
二ノ宮君も、不思議そうに言う。
「直人かぁ……そういうのあんま聞いたことないな……」
「そっか」
確かに、桜月君の恋愛どーのこーのは聞いたことがない。
「あとさ、二ノ宮先生とかは?」
兄貴?とまた不思議そうな顔をする。
正直、ちょっとだけ、兄貴と呼ぶ時に少しだけ誇らしそうな顔をする二ノ宮君が好きだ、なんて思ってるのは内緒だ。
「二ノ宮先生、もう大人だし…相手いないのかなって」
「?相手ならいるぞ?」
「えっ、誰!?」
驚きだった。
二ノ宮先生に相手がいる、それも二ノ宮君が知っている人。
「あいつも二ノ宮の長男だしな…
結婚相手はもうすごい早くに決められてる」
それって、
「許婚、みたいな?」
「あー、そんな感じかな」
「それ、二ノ宮先生本人は知ってる、よね?」
「まぁ、本人だし」
やっぱり、お金持ちの世界ってこういうことあるんだ……
「二ノ宮先生は、嫌じゃないのかな」
「さぁ……それについてはほとんど何も言わねぇから兄貴」
そういえば、と何かを思い出したような二ノ宮の。
「近々、対面式があるな」
「対面式?」
「あぁ。2人が会って、まぁ結婚を決める話だな」
なぜだか、胸騒ぎがするり
それは、二ノ宮先生にとってはいいことかもしれないけれど、………わかんない。
正体のわからない不安感を、無理やりなぎ払う。
なぎ払って、一つ気になったことを聞いてみた。
「許婚って、……あの、二ノ宮君は…」
「俺はお前がいるし」
「えっ、」
「なに?」
「あ、ううん。そう、だよね」
そう言ってもらえて嬉しかった。
嬉しかったけれど、まだもやもやが消えない。
波乱が、近づいていることくらいしか、わからなかった。
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