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事実 桜月side
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「ここ、か……」
委員長に教えてもらった場所の前に立ち、その建物を見上げる。
ー
「……言えない」
「は?」
「俺からは言えな…」
「どこ」
「だから、…」
「言え」
とまぁ、半分強引に聞き出したんだけれども。
そこは、二ノ宮家が所有する大型高級チェーンホテル。相変わらずのデカさと豪華さにため息すら漏れる。
まぁ、俺も何度か利用したことはあるけれど。
ロビーに入ると、俺を見つけた受付が目を見開いた。
「さ、桜月、直人様…!?」
完全予約制のこのホテルは、思わぬ来客に一瞬ざわめきたったが、そこはプロ、すぐに対応し始める。
「どうされました?」
「いえ、今回は私用なのでお構いなく」
「しかし、」
「待ち合わせです」
と、有無を言わせぬように少し強く言う。
待ち合わせなんて、してないけれども。
承知しました、と渋々ながら去っていくのを見送って、エレベーターに入り、最上階を押す。
最上階は、まとめて一部屋の超スウィートルームだったはず。
世界的な有名人か、二ノ宮家などのトップ層にいる家系の人達くらいしか利用しない。
さて、まずなんて言ってやろうか。
とりあえず今は何か言ってやらないと気が済まない。それでないと、このモヤモヤした気持ちは治らない。
チン、と控えめな音がして、扉が開く。
そしてそのすぐ前にまた大きな扉。
一度軽く深呼吸し意を決してノブに手をかけて回そうとした時、
「…………ですって」
「………?………かしら」
かすかに聞こえた声に、動きを止めた。
ー保健医と、………女の声?
静かにゆっくりと、ドアに耳をつける。
ー盗み聞きなんて、趣味じゃないんだけど。
「いい加減、首を縦に振ったらどうなの?」
「だからできないと言ってるんです、結婚なんて」
「………は?」
思わず声が漏れてしまった。慌てて口に手を当てたが、どうやら気づかれていないらしくほっとする。
「いつから決まってたことだと思ってるの?
自分勝手も大概にしてくださらない?」
「最初嫌だと言っていたのは貴女でしょう。
なんでいきなり急ぎ出すんです」
「それは、……………、顔を見てなかったからよ。誰だって見ず知らずの男と結婚なんて嫌でしょう」
「俺もあんたも見ず知らずとなにもかわらないですけどね」
「そんなことないわ!顔を見たらだいたいわかるでしょう!ねぇ好きなの、一目惚れしちゃったの。どうせ将来結婚する立場なんだから、少しくらい早くてもいいじゃない」
なるほど、この女は所詮顔で選んだわけだ。
保健医の何も知らないくせに、そんな立場に入れることが俺はすごく…羨ましい、のに。
少なくとも、結婚の話に反対している様子の保健医に、凄く、安心した。
これで相思相愛ならば帰るしかなかったから。
「俺は貴女なんて好きじゃないんですよ」
「そんなの、結婚して好きになればいいじゃない」
「あいにく、結婚していくら経っても貴女を好きになる自信がありません。貴女が欲しいのは、あなた方の家が欲しいのは地位でしょう?」
さすが保健医、よくわかってるよ。
それに俺は、と続ける。
「それに俺は、他に好きな人がいますから」
なおさら結婚なんてできませんよ、と。
ドキりとした。
けれど、アイツからは昨日もう好きじゃないと言われたばかりだ。
なら、また別の人?
「そ、それは、でっち上げだわ」
俺はこれから、どうすればいいのだろうか。
ここにいて、入っても何が言えるのだろうか。かと言って、帰れるわけでもないのに。
はぁ、と保健医の大きなため息が聞こえた。
「何日もこんなこと話してても埒があきませんね。俺は貴女と結婚するつもりも、そんな気も毛頭ありません。
破棄、させてもらいます」
「嫌よ。ならなんで家の力を使わないの?
本当に嫌なら、二ノ宮を使えばいいでしょう?」
ーそれは、心のどこかでは私のことが好きなのだという思い込みだろうか。
「貴女ごときに家は動かせませんよ。
貴女みたいな、自分を過大評価しすぎているお馬鹿なお嬢さんごときには、ね」
馬鹿にしたような笑いの後に、パシンッと乾いた音が聞こえた。
保健医、叩かれたか。ざまぁ、とか思ってしまう自分は本当可愛くないな。
「さ、最低ね!前言撤回よ、貴方なんか私には釣り合わないわ」
足音が聞こえ、すぐ近くで声が聞こえた。
「それはこっちのセリフですよー」
危ない、と横に隠れたと同時に扉が大きく開いて、そのまま走って出て行く女性。
それを見届けるように、とびらのまえまで来た保健医だったけれど、すぐ部屋の中へ戻ろうと横を向いた瞬間、
「っ、は?桜月?」
「…………、こんにちは」
俺と目があって、一瞬保健医の目が大きく見開いた。
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