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知っていた
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「え、?」
気づいた時には僕は二ノ宮くんの腕の中にいて。
強く、でもそっと抱きしめられていた。
いきなりのことで焦ると同時に、少し頭が冷えた。
「え、ちょ、二ノ宮くん!?」
「………」
驚いて名前を呼ぶけれど返ってくるのは沈黙ばかりで。
逆に混乱してきて、二ノ宮くんの肩に両手を置き少し力を込めて押すけれど、その体を離すことは出来なかった。
「ど、どうしたの二ノ宮くん」
「……悪い」
謝ったかと思うとスッと体が離れた。
でもその手つきは凄く優しい。
「落ち着いたか」
そこで僕のためだったのだと察した。
「あ、大丈夫だよ。ごめんね、いきなり走っちゃって…」
「そうじゃない」
お前、震えてただろ、と核心を突かれる。
「……」
けれど僕は俯いてそれに沈黙で答える。
言えない。言えるわけない。
父親が怖くて震えていた、なんて。
僕の家族は仲がいいと言われているはずだから。
はーといつまで経っても何も言わない僕に二ノ宮くんはため息をこぼした。
「すまん、言わなくていい」
「ごめんね」
その気遣いに少しだけ笑って謝る。
「それより、何か用事があったんじゃないの?生徒会室の前にいたし…」
少し無理矢理だけど、話題をずらした。
生徒会室の前にいたということは、用があったのだろう。
「あ、あぁ…、昨日の事で」
そう切り出した時の二ノ宮くんは気まずそうに目をそらしながら言った。
昨日。
僕が二ノ宮君に怒鳴ったことだろうか。
正直、その後の大原くんたちのことが強すぎて忘れてた。
いや待って僕、なんてことしてるんだ。
冷静になって考えてみると、恥ずかしくなってきた。
「ごめんなさい。怒鳴るつもりじゃ、なかったんだけど…」
「いや、俺が言いすぎた」
二ノ宮くんのそれはつまり、自分の非を認めるということで。
それは、どこからどこまで謝っているんだろうか。
「お前は、ちゃんと仕事してる。
それはわかってたのに、あんな事言って悪かった」
ちゃんと仕事してる。
その言葉だけで十分だった。
認められた。
誰も、いないと思っていた。
認められ無くてもいいと思っていた。
思わず嬉しさがこみ上げる。
「う、ううん。最近仕事が遅いのは、事実だし……」
「1人でやってることも、知っていた」
「え、?」
僕が1人で仕事をやり始めてからはなんだかんだで二ノ宮くんとは会わず、桜月君と会っていた。
だから、そのことを知るのは桜月君だけなはず。
「ミスはするが、ちゃんと一生懸命していたのはわかっていた」
なのに、と。
「感情的になったとはいえ、本当に悪かった」
と僕に向かって頭を下げる二ノ宮くんに驚いた。
「あ、頭を上げてよ二ノ宮くん」
と、とりあえず生徒会室に行こう!?
何とか二ノ宮くんを立たせて、説得する。
こんなところ、他の役員や親衛隊はじめ一般生徒に見られてしまったら大変だ。
正直、2人で話をするなんて今までのことを思えば気が進まない。
けれど、そんなんじゃいつまでたっても変わらないから。
二ノ宮くんと生徒会室に向けて歩き出した僕の体の震えは、止まっていた。
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