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母さん、母さん、母さん
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ほとんど何も食べてなかったものね、とニコリと笑ってベッドの横の椅子に座る母さん。
あの日から、父さんとはまた違う意味で母さんが怖い。
この人は、一体何を考えて笑っているのだろうか。
「まぁ、そんな怯えないで。
暖かいスープを持ってきたの。ほら」
軋む身体を引きずって、横になっていたベットの端まで移動する。
「もう、遥ったら。死んじゃうわよ?」
心配なんてしてないくせに、と心の中で呟いて、睨む。
「なんですか、いきなり」
掠れた声でそういえば、優しく笑う。
「お腹が空いてたら、何もできないじゃない」
何も。
何をさせる気?
殴られるために体力を温存しとけということなのだろうか。
「………いりません」
「遥」
ふらり、と優しい声色で僕の名前を呼んで頬を包む。
「お願いよ。私を置いて死なないで」
「っ、ぁ…」
弱々しく笑う母さんに、流される。
結局、僕は母さんに甘いのだ。
なんて言ったって、母さんなのだから。
「そう、いい子ね」
ゆっくりと。
ゆっくりとスープを飲む間、サラサラと髪をすいてくれるその手が優しくて、錯覚する。
カシャン。
と、スープのカップを落とした。
下は絨毯だから、割れることはなかったけれど、残っていたスープは絨毯にしみていく。
「あら、勿体無いわ」
母さんはそれを拾い上げ、そばの机におく。
「な、に、っしたんで、すかっ…!」
だんだんと苦しくなってくる呼吸に、どくどくと心臓が鳴る。
力はないはずなのに、立ち上がって、母さんを睨む。
息も絶え絶えにそう問えば、ふふ、とまた笑う。
「今日はね、あの人が仕事で帰ってこれないそうだから」
「はっ、母さんが、…」
「違う違う。私はあの人の言われた通りにしているだけよ」
置いたはずのカップを手に取り、ユラユラと揺らす。
「この中にね、あの人から渡されたクスリが入っててね」
声がだんだん遠くなる。
これは知ってる。
ここ最近感じてる、気を失う感覚。
「あらあら、もう寝るのね」
けれど、と。
「これがなにか、起きたらわかるわよ」
起きたら。
は、は、と苦しくなる息の中、叫ぶ。
「か、あさんっ!」
「じゃあね、遥。楽しんでらっしゃい」
微笑んで扉へ歩いていく。
追いかけたい、追いかけたいのに、霞んでいく意識のせいで、動けない。
手を伸ばしても、その手が届くことはない。
「か、さん。母さん、母さんっ!」
助けて。
行かないで。
ー楽しんでらっしゃい。
意識が落ちる寸前、そう聞こえた。
「な、にを……?」
どくどくとと不可解な動機と、荒い息を残したまま、ベットに埋まった。
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