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僕がいなくても
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僕が出した手を、先生は優しく、でもギュッと強く握り返した。
「てことなんで、こいつ貰っていきます」
歩けるか、なんて聞かなかった。
ふわりと持ち上がった体に驚く。
「ぇ、……なっ…!?」
それは横抱き。
つまりお姫様抱っこの状態で、羞恥のあまり顔が真っ赤になった。
触られるのが怖かったけれど。
自分で握った手と同じ温度に安心した。
あの夜佐々木さんからされた事と同じ。
けれど、全く違う。
「軽いな…」
小さくそう呟いた先生の声は聞こえなかった。
そのままスタスタと歩き出す。
出口へ向かって。
1週間ぶりに部屋から出て、何も変わっていない、僕がいなくてもいつも通りのこの家に、泣きそうになった。
「待て」
けれど当然父さんがそれを許すわけなんてなくて。
先生とドアの前に立ちはだかった。
「黙って聞いてれば勝手に。学園に連絡するぞ」
2人を睨んでそう言った。
学園に連絡が言ったら、そのまま家の方にも連絡がいく。
それで、脅しているのだろう。
「桜月」
「はいはい、任されました」
けれど逆に、それを考えていなかったなどとはあるはずがないのだ。
ここにきた時点で。
「会長と先生は先に車にいってて下さい」
と、先生と父さんの間に桜月君が入った。
「やめて!私の子よ。たった1人の子なのよ!連れて行かないで!」
たった一人の子。
どの口がそう言えるのだ。
「遥!遥…、私を1人にしないで?」
目に溜まってる涙は偽りだろうか。
「あ、なた、は…、僕がいなくっ、ても。
大丈夫な、は、ずです」
出ない声を振り絞って出した。
その声はあまりにも小さかったけれど、母さんには届いたみたいだった。
本当は、もっと酷いこと言ったって、許されると思う。
けれど、僕が言えるのはこれが限界だった。
泣き崩れた母さんに、少しだけ胸がチクリとしたけれど、それ以上は何も思わなかった。
なんだが自分が心のない人間になったみたいで怖かったけれど、大きすぎる安心感にそれはないと首を振る。
「ふざけるな、子供が相手になるものか」
と、父さんは桜月君を睨む。
「言わせて貰えば、鈴原なんて相手にならないと思ってますけど」
それに対して桜月君は笑って言った。
なんだとっと、声を張り上げた父さんの顔を見る前に、先生が動いた。
「行くぞ」
「ぁ、はい」
扉を開けた瞬間目に入った光が痛い。
けれどそれを、苦しいとは思わなかった。
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