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君の名を
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僕が二ノ宮家にきて、数日。
二ノ宮夫妻にも、先生にも、なぜか一緒に泊まってる桜月君にも、二ノ宮君にも、凄く良くしてもらってるのに、まだ僕の声は戻らない。
不便だ、と思う。
1人の時は出るのに、人を前にすると喉が引きつって声にならない。
みんなもわかってくれてるけれど、面倒くさいとか、思われてないかななんて不安がよぎる。
先生は、ショックとストレスだろうって言っていた。
「絶対余計なこと考えてるだろ」
「ぇ…?」
「そんな顔してる」
「迷惑だなんて考えてたら、俺たちのこと否定することになりますからね?」
日課となりつつある僕の部屋に集まって、喋っている途中、考え込んでしまった僕に三人とも苦笑する。
み、見抜かれてる…。
『やっぱり、声、出ないのは不便だなって…』
素直にそういえば、先生が大丈夫だと言う。
「時期に戻るさ」
『……はい』
ごめんなさい、と打つとまたみんなの顔は険しくなる。
「こら鈴原。違うだろ」
と、指摘されて何が間違っていたのだろうと必死に考える。
『あ、…ありがとう』
「あぁ」
と言って二ノ宮君は笑った。
その笑顔は、すごく優しくて明るくて。
早く二ノ宮君の名前を呼びたいなって、二ノ宮君と喋りたいなって、ふと思ってしまった。
それがどんなに贅沢なことか。
気がついて、落ち込んでしまう。
「てゆーか、お前はいつまでいんだよ」
と、話を変えて先生は桜月君に向き直った。
「だって、会長心配じゃないですか」
「それだけじゃねぇだろ」
「おいしいじゃないですか」
「は?うちの料理がか?」
「んー、あながち間違ってはいないですけど」
意味わかんねーと続ける先生に笑いが漏れる。
毎回思うけれど、この2人の会話は面白い。
まだギャーギャーと騒いでる二人を笑いながら見ていると、いきなりくいっと腕を引かれた。
「っ、」
それに少しだけビクッとすると、悪いといって二ノ宮君がその手を離す。
『どうか、しました?』
そう聞くと、ニヤリと笑って、今度はゆっくりと僕の腕を握った。
『????』
よしっ、と、
「抜け出すぞ」
そう言いながら、僕を立たせて、まだ喋っている2人を置いて部屋から出た。
正確には、出された、だけど。
「え、あの-…!!!?」
「どーせあのまま終わんねぇって!」
クスクスと笑うその横顔を見ながら、ブワッと湧き上がってくる感情。
あぁ、今、丁度今。
二ノ宮君の名前を呼びたい。
僕の、この声で……。
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