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天秤
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集会の翌日。
資料の提出のために僕は風紀委員室に向かっていた。文化祭直前というのもあり、忙しいのだ。
それは、角を曲がろうとした時
「……か、二ノ宮様…!」
と、男にしては少し高い声が聞こえた。
反射的に、足を止める。
頭が早く去ったほうがいいと警報を鳴らすけれど、なぜか動けなかった。
「本当だ」
二ノ宮君の、声がする。
「僕は、僕は二ノ宮様が好きです!」
ズキ、と胸が痛んだ。
二ノ宮君はかっこいい。
まして、中等部のころから会長だったのだ。
二ノ宮君を好きな子など、いくらでもいるだろう。
「貴方を想っている気持ちなら、会長に負けません!」
涙声で言う彼は、きっと、きっとずっと前から。
そう、きっと僕より前から二ノ宮君のことを本気で好きだったのだろう。
「ありがたいが、悪い。その気持ちには答えられない」
気遣わしげに言った二ノ宮君の言葉に、焦る。
そんな言い方…。
「なんでですか!なんでよりによってあの人なんですか!!
あの人は二ノ宮様には釣り合いません!」
「っ、」
釣り合わない。
わかっているけれど言われると、改めて自覚させられる。
「あの人なんか…!」
「黙れ」
「っ!」
その子の言葉を遮った二ノ宮君の声は低かった。
「釣り合うとか、釣り合わないとかどうでもいい。ただ好きなんだよ。
それと、俺の前であの人なんかと鈴原を卑下するようなことを言うな」
「っ、絶対に後悔しますから!!」
「それはないな」
そう言った後、こちらに走ってくる足音が聞こえた。
まずい、
角を曲がり、僕の姿を見た途端、走ってきた男の子は足を止めた。
綺麗で、可愛くて、華奢な子だった。
それがなぜか、すごくショックだった。
大きな瞳が僕を捉える。
「なに?盗み聞き?」
「ち、違う…」
「心の中で笑ってるの?僕のこと」
「そんなことない!」
「どっちにしろ、貴方にはわからないよ」
キッ、と涙目で睨みつけて僕の横を通っていった。
呆然とそこに佇む。
遭遇して、改めて感じさせられる。
僕が幸せになることで、不幸になる人がいる。
「どうしよう…」
そのことは、思ったよりもズシリと重く心にのしかかった。
浮かれていた。
幸せだと。
けどそのせいで、不幸になった人が何人いただろう。
僕の、せいで。
自信を持って二ノ宮君の隣は僕だと言えない自分が憎い。
二ノ宮君は、僕のどこを好きになったのだろう。
あの子の方が可愛かった。
あの子の方が釣り合う。
あの子の方が、二ノ宮君の隣だと聞いて納得できる。
あの子の、方が、僕よりも二ノ宮くんを好きかもしれない。
僕を選ぶ理由なんて、あるのだろうか。
僕で、いいのだろうか。
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