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その後椿はまた炎天下の中を歩いていた。
数分前と違うのはぼう、と下を見て歩いているところだろうか。
頭がぽわぽわとする感覚を覚えながら、椿は先程のやり取りを思い出していた。
『LINEでいいかな。あ、僕あんまり慣れてないから笑わないでね。』
なんて釘を刺されながらQRコードを読み込んだ椿。
画面には土井智と名前が表示される。
驚くことにサムネイル画像は他人に撮られたのであろう、本人の写真だった。
ちなみに椿のLINEのサムネイル画像もホーム画面画像もデフォルトだ。
まだまだ話したかった椿だったが、仕事があるからと立ち上がった智に合わせて店を出た。
『9時には家に帰っているから、電話しようか。ゆっくり話そう。じゃあまた後でね。』
軽く手を振って蜃気楼の中に消えていった智。
自分の手首にあった時計を見つめると、授業開始30分後を指していた。
まるで夢のような出来事だった。
すべてのやり取りはついさっきのことなのに、遠い昔のように感じる。
夢だったのではないかと思う。
声、仕草、顔、体。
全てを思い出して、ラインを開いて夢じゃない……と再確認した。
夜9時が待ち遠しくてたまらない。
「はぁ……」
熱の篭った溜息を吐いた椿は、ケータイをポケットに押し込んだ。
この世の中には無情にも男女の性別と別に、α、β、Ωという性別がある。
何が優れてる、何が優れてない、なんてその性で決まるのはおかしいと思う。
けれど、世の中はΩという性別の人は劣っているという判断をする。
酷いものだ。
Ωである椿もその劣っている人種に分類されるひとりである。
幸いにも昔に比べて性に寛容になってきた社会。
昔はかなりΩは迫害にあっていたらしいが、近頃は政府の対策などもあり、ずいぶん生きやすくなったのではないかと思う。
けどやっぱり、根付いた意識は消えていない。
Ωは繁殖するだけの生き物と捉えられがちで、差別されがちだ。
椿はそこまで考えて、胸をチクリと痛ませる記憶を呼び覚ました。
高校生の頃の記憶。
忘れてしまえればと思うものの、記憶はそう簡単には消えてくれない。
Ωには発情期がある。
きっとそれがΩを毛嫌う原因なんだろう。
ほかの性を惑わせてしまう発情期。
周りのβ性やα性の奴と比べると低い身長。
自分の手を広げて軽く握った。
育ったつもりだが育ちきれてない気がする。
彼もΩは嫌いだろうか。
もし嫌いだったらどうする?
椿はこれまでΩであることを隠したことがなかった。
Ωだといって自分を疎む相手とは付き合っていけないと分かっていたからだ。
けれど、智は違っていた。
でも、隠し通すには無理がある。
嫌われたくない。
初めて抱いた感情に椿は胸元の服をぎゅうっと握った。
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