アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
52
-
「着いたよ」
見慣れた看板に安堵を覚える椿。
椿でもよく訪れるような場所に来れたことに少し嬉しさを覚えた。
自分が働いている店舗とは違うが同じ店だ。
椿は車から出ると伸びをした。
そしてポケットを漁った。
「あ」
あった。
錠剤の抑制剤がひとつ。
もしもの時はこれを飲めばいい。
ふう、と椿はまた一つ安堵のため息を吐くと智を見た。
智はこっちを見ながら小首をかしげていた。
「どうしたの?」
「あ、いえ、大丈夫です。」
「そう、行こうか。」
店内に入るとほとんど人はいなかった。
携帯を見ていたら時刻は10時を回っている。
晩御飯を食べる人ももうほとんどいないだろう。
「何か食べる?」
「あー……どうしよう」
「食べてもいいよ。僕はもう食べてきたんだけど。」
「じゃあ……お腹すいたら食べます。」
何だか胸焼け、というか、ムカムカする。
お腹すいてたハズなのに。
「じゃあドリンクバーだけ頼もう。」
「あ、俺取りに行きますよ。」
「じゃあアメリカンで」
「はぁい。」
椿が席を立ってドリンクを取ってくる。
椿がチョイスしたのはココアだった。
コーヒーはなんだか苦くて砂糖を沢山入れなければ飲めない。
「ありがとう。で、どうしたの?」
「あぁ、えっと…」
「ゆっくりでいいよ?声を聞いていると聞いてほしそうな声に聞こえてさ。」
「……あ、はは。もう智さん……」
ニコリとして言ってくる姿に、椿は眉を下げた。
大人だなぁ。
言わなくても分かってくれているみたいだ。
それが、年の差なのかもしれない。
生きてきた長さの違いなのかもしれないけど。
こんな風に裕人の言いたいことも分かれば何か変わっていたのかもしれない。
こんな風になることも無かったのかもしれない。
こんなふうに余裕があれば、こんなにショックを受けていても話をまともに聞けたのかもしれない。
だけど俺は余裕が無いから、子供だから、裏切られたとしか思えない。
ゆうとがどうしてあんなことを言ったのか。
あんなことを思いながらも今までずっと一緒に居てくれたのか分からない。
俺が、やっぱり悪いのかな。
「椿くん?ほら、出してごらん」
優しく頭を撫でられて、椿が智を見た。
智は相変わらず優しい目をしている。
椿はそれを見て閉じていた唇をゆっくりと開いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
52 / 131