アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
86
-
佐々木弘という男は、椿達よりも6つ年上の男。
去年まで椿たちと同じ大学に在籍していたらしい。
裕人と篠原と同じサークルに所属していて、その関係で裕人と面識があるらしい。
ちなみに椿のバイト先の先輩だ。
「おはよう椿くん。今日もお願いね」
「おはようございます。」
にこにこと笑いかけてくれる店長。
ホールを覗けば料理を運んでいる佐々木が目に入った。
……会いたくなかったというか、どんな顔をすればいいのかわからないというか。
椿はそそくさとバックヤードに潜ると服を着替え始めた。
なるべく話さないようにして、距離も置いとけば特に問題が起こることもないはずだ。
着替えてキッチンに向かった椿は仕事を探しながら佐々木の様子を伺った。
そして頭の中で昼間会った篠原の姿を思い出す。
あのふたりが付き合ってるのか……。
ほんと何があるのかわからないよなぁ世の中って。
あの男の何がいいんだろう。
椿から見た佐々木は、性格最悪、見た目もそこまでいいと思えない。
体躯は細めだし不健康そうに見える。
目つきが悪い上に猫背なせいで、接客業としては最悪のような気だってする。
煙草を吸うせいでいつもタバコ臭いし。
おまけに椿にいつも突っかかってくる差別の塊野郎。
じい、と椿が佐々木を見ていると、気配に気づいたのか佐々木が振り返った。
そして椿に近づくと顔を歪めながら吐き捨てた。
「何見てんだよ」
「いや、なんも……ないっす」
「あぁ?見てんじゃねーよ」
どこの輩だよ。
椿は心の中でそうツッコミを入れると、頭を下げて食器を拭く。
しかし佐々木の気配が椿から遠退くことはなかった。
椿は怪訝そうに顔を上げた。
すると椿を見ていた佐々木と目が合った。
「なぁ、お前さ」
「はい?」
「ワンコ……亮と同じゼミなんだろ?」
「ワンコ……?」
ワンコ?
椿の頭は?で埋め尽くされる。
きょとんとしている椿を見て、佐々木はガシガシと頭を掻いた。
「そこはいーんだよ。」
「はぁ、まぁ」
「なんだよ歯切れ悪いなシャキッとしろよ。」
めんどくさいなこの人。
自分から話しかけてきたくせに文句ばっかりだ。
椿は若干と苛立ちを覚えると目を逸らして、手を動かすのを再開した。
「何ですか」
「アイツさ、学校でどんな感じ」
「どんな感じって?」
「そのままだよ!」
隣でギャンギャン吠えるのに眉を寄せながら、椿は篠原のことを思い出す。
同じゼミと言っても存在を認識したのが一昨日だし、ちゃんと話したこともないし。
話すのをずっと聞いているけど、様子を聞かれて答えられるほど見知った仲ではない。
「うーん、明るいです」
「それは分かってる」
「よく喋りますね」
「知ってる」
「ぐらいですかね」
知ってるんじゃないか。
じゃあ別に聞くことないだろ。
俺に聞くよりほかの人に聞いた方がいい。
「テメーはアホか!ちげーよ!そういうことを聞いてんじゃねーよ!」
「なんなんですか……」
案の定キレ気味に返されて椿は呆れ顔で佐々木の顔を見た。
佐々木は少しどもりながら「あー」と繰り返している。
「その、女とかだよ」
「……女?彼氏なんじゃないんですか」
「かっ?!」
この人は何を言ってるんだ。
そう思いながら椿が口を滑らすと、佐々木の顔がどんどんびっくりしたような顔に変わる。
そして口をぱくぱくと開閉しながら、頬を赤くした。
その様子を間近でもろに見た椿は、思わず感心するような態度をとってしまう。
……こんな顔もするんだこの人。
「アイツ……ペラペラと……っあー……もういいお前ホール代われ」
「……?」
佐々木は顔を隠すように顔を背けると、顎で椿に指示を出す。
相変わらず癪に障るその態度に椿は頭を傾げながらも、濡れた手を拭ってホールに向かう。
なんだ、この人は何をどうしたいんだ。
さっぱりわからない。
まぁいいか、俺には関係ないことだし。
椿がホールに出ようとした時、後ろから「おい」と声がかかる。
まだ用があるのか、一回でまとめてくれないかな。
そう言いたくなるのを我慢して後ろを振り返った椿。
そこには椿を睨んだ佐々木がいた。
「てめぇ、オメガだからってアイツに色目使うんじゃねーぞ。」
……またそれか。
それを言わなきゃ気が済まないのかお前は。
こっちにも選ぶ権利だってあるんだぞ。
最後の最後でとどめというように嫌味を言われた椿は流石に頭に来て、言い返してやろうと口角を上げた。
「……心酔してますね」
「あ?!ちげぇよ、オメガなんかに横取りされたら恥ずかしくて表歩けねーだろーが」
「なっ」
ムッかつくほんとにこいつ!!
お前が取られないように自分に惹き付けといたらいいだけの話じゃん!
つーか俺は興味無いし!!!
あんな男より智さんの方がよっっぽどかっこいいし!!!!
「佐々木くん、私語は慎んで」
椿が佐々木をキッと睨めば、後ろから店長の声が聞こえた。
「テメーのせいで怒られただろーが、ほら、はやくいけっ!」
「いたっ」
小声でそう言った佐々木は椿の尻を蹴ると、追いやるようにキッチンからホールに椿を押し出した。
椿は尻を撫でながら頬を膨らませると、眉間にシワを寄せた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
86 / 131