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「どこにいこうか。」
爽やかな笑顔でそう言う智に椿は口の中にあるものを噛み砕きながら頬杖をついた。
「こら、椿くん食事中に肘をついたらダメだろ」
「……はぁい。」
椿がシャワーを浴びて部屋に戻った時には、朝ごはんができていた。
トーストにサラダ。
パンがこんがりと焼けた香ばしい香りが椿を出迎える。
にっこりと笑って服を着替えていた智を見た椿は顔を歪ませる。
そんな出来事があってからの現在午前9時を半分すぎたところ。
少し遅めの朝食だろうか。
椿は何に先程から機嫌を斜めにしているかと言うと、智の行動だ。
あんなことをしておいて何も無かったように振る舞うその態度。
余裕たっぷりでどこか気に入らない。
初めからそうなのだが、自分ばかりがヤキモキしているような気がする。
なにか出来ればいいのだが、椿はむくれる以外に何かアクションを起こすことが出来ない。
「どこって……智さんは何を考えてデートしようとか言ったんですか?」
ふいと顔を背けてそんなことを言ってみる。
デートしようって言ったのはそっちなんだからあてはあるだろ。
そんな八つ当たりのような焦れったい気持ちを含ませてその言葉を発した。
「何を怒ってるの、僕なにかした?」
流石に不穏な空気を感じ取ったのか、智は持っていたトーストを置くと眉を潜めた。
声のトーンも心做しか落ちている気がする。
思った以上の反応に椿は思わず智を見ると、弁解しようと口を開いた。
「いや……。」
「君ぐらいの年の子が喜ぶことってなんだろう。女の子じゃないからな、難しい。」
悪びれもなくそんなことを言う智。
椿は少し緩ませていた顔をもう1度引き締めてから頬を膨らませた。
オメガ、という存在が少し異質なだけであり、この世界ではまだ男と女が子孫を残すというのが自然の摂理。
智も例外ではなく生まれてきてこの方ずっと女だけを対象に恋愛をしてきたのだろう。
「……悪かったですね、女の子じゃなくて」
男で、しかもオメガ。
まだ女だったらよかったものの。
といっても大して世間の見る目は変わらないのだろうけど。
しかし世間に溢れているAVは男と女でペアになっているものが多い。
それが世間の基準なのだろう。
突き放すような言い方になってしまった椿だが、大して気にしていなかった。
智が悪い。
というか、この人は完璧なジェントルマンかと思いきや意外とデリカシーのないところがある。
「もう、椿くん。」
「っん、……」
尖らせた唇に触れる唇。
そうやって今までの恋人も黙らせてきたのだろう。
そう思っても椿とて例外ではない。
逸らしていた目線をちゃんと智に戻した。
ピリッとし始めていた空気が途端に甘いものに変わる。
智はそれを分かっているし、椿もそれを感じていた。
「なんでそんな意地悪なこと言うの?それともお姫様みたいに扱ってほしい?」
智の指が椿の唇の形をふにふにと変える。
椿はそれを気にしないようにしながら、抗議の目を向けた。
「……俺は男です。王子みたいに扱ってください」
「っふ、あはは。それは難しいなぁ。王子かぁ。さしずめ僕は執事?」
「…他国の王子です」
「椿くんって結構少女漫画とか好き?」
「読んだことないですよ」
こみ上げる笑いを隠すようにはにかんでいる智。
そんな智を見ていれば椿ももうどうでもいいのかと思ってしまうのだった。
結局俺はこの人の手のひらで踊らされているのだろう。
それをわかって俺も踊ってしまう。
それは経験値の差だったり、気持ちの差だったり。
椿はやっぱり自分ばかりが目の前の男のことが好きなのだと再確認すると、諦めたように眉を下げた。
「大切にしたいだけなんだ。君が喜ぶことをしてあげたい。君が男でも女でもそこは関係ないよ」
「……よく言いますね」
傷つけるようなことを言っておいて、最後には気を引くようなことを言って。
この人はいつもそう。
椿は小さく呟いた。
「ん?何か言った?」
「いいえ?んー……秋ですし紅葉でも見に行きますか?」
この話はもう終わりにしよう。
そう考えた椿は話題を転換させた。
この時期と言えばなにがあるだろう。
そういえば昨日のニュースで紅葉が綺麗になってきたとかなんとか言っていた気がする。
「紅葉か!いいね。椿くんってセンスいいね」
「近くに紅葉が綺麗な公園があるんです。そこに行ってみますか?ちょっと暑いかもしれないけど色々あって面白いんですよ」
「へぇ。行こう!楽しみだな」
椿はまだ1、2回しか行ったことのないその場所を思い出しながら、トーストを齧った。
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