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第三章第六章:愛すべきもののすべてに8
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sideチョロ松
一瞬のことで、何が起こったのか分からなかった。
立ち上がったおそ松兄さんは、片手に赤い炎を灯し、放った。
それは、道化師を射抜き、甲高い悲鳴が空気を震わせたと思ったら、その姿は消えていた。
「トッティ、大丈夫?」
「うん」
十四松がトド松に寄り添う。
弟の無事を確認して、ほっとしたのは、ほんの束の間だった。
ドサッと、隣で音がした。
おそ松兄さんが倒れた。
「兄さんっ!」
今の今まであったはずの角も尻尾も消えていた。
おそ松兄さんは、悪魔の姿ではなかった。
見慣れた、と言っても、もうずいぶん見ていなかった、「いつもの」のおそ松兄さんの姿があった。
カラ松に支えられるようにして、止血を済ませた一松が、僕の隣に来て、まじまじとおそ松兄さんを見つめ、そして、首を振った。
「もう、ダメだね…」
「どういうこと!?」
大体の察しはついていた。
でも、僕は聞かずにはいられなかった。
僕の頭によぎったものを、否定してくれる期待など持てないと、知りながらも。
「魔体はね、魔力が動源なんだ。おそ松兄さんが、もとの姿に戻ったってことは、魔力が消えたってこと。生命活動があれば、体力に切り替わるんだけど。替わる動力がないから。だから、おそ松兄さんの魂は、今、消滅したんだ…。ここが魔鏡って、特殊な空間だから、身体の形は保っているけれど」
ポロポロと熱いものが、目から溢れては、頬を伝う。
一松は、そんな僕を一瞥もせずに続けた。
「気付いていたんでしょ?」
頷くことがやっとだ。
気付いていた。
本当は。
気が付かない振りしていたんだ。
おそ松兄さんが、既に絶命しているって。
地上に居た時から、なんとなく分かっていた。
でも、魔国に連れて来られて、たとえ悪魔の姿でも、おそ松兄さんに会えて、動いているおそ松兄さんに会えて、それで僕は満たされていたんだ。
「あそこまで衰弱していたら、普通、立ち上がることなんて出来ないし、ましてや魔力を使うことなんて…。人間の気持ちって、計り知れないね。僕みたいな死神には分からないけどさ」
「何言ってんの?」
僕は涙を拭った。
「一松だって、人間でしょ?」
無理やりでも構わないと笑って一松を見やると、一松も無理やり感が存分に溢れる笑みで、僕を見ていた。
***
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