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第三章最終節:悲しき悪魔のおそ松兄さん
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side一松
魔国から帰った晩、十四松は徹夜で、カラ松と、チョロ松兄さんと、トド松の記憶を消した。
どさくさ紛れで、カラ松の前世の記憶も消してもらいたかった。
これ以上、カラ松を苦しめるのは、俺自身が耐えられそうになかったから。
でも、さすがに上の許可がおりなかった。
おそ松兄さんの魂が残ったのは、半ば奇跡的だった。
おそらくは、トド松が魔鏡の鍵で世界を元に戻す瞬間に、女神の力を持ったチョロ松兄さんが、おそ松兄さんの魔体を抱いていたのが、何らか作用したんだと思う。
チョロ松兄さんは、あの後、暫くしてから家を出た。
もともと自立したがっていたのもあるけど、それよりも、おそ松兄さんの居ない家が辛かったのかもしれない。
今日は、チョロ松兄さんの家に遊びに行く。
で、その帰りに猫カフェに行く。
猫カフェの近くなんて、なんて良いアパート借りてんだ、あいつは。
「一松!遅かったね。早く上がりなよ」
チョロ松兄さんに促されて、ワンルームの狭苦しい部屋に座る。
「今、お茶淹れるから」
これまた狭苦しい台所…いや、あれは台所ではない。
ただの極狭の炊事スペースだ。
見回すほどの部屋じゃないけど、なんとなく見回すと、棚の上におそ松兄さんの写真が乗っているのが見えた。
何とも言えない気持ちに、ため息を漏らすと、不意に肩を叩かれた。
びっくりした。
チョロ松兄さんは、まだコンロの前に居るのに。
「元気?」
プカプカと、上下に揺れるおそ松兄さんは、変わらない悪戯っぽい笑顔を見せた。
「ここに居たの?」
「うん」
「一松?何?」
チョロ松兄さんが声を掛けてくる。
「何でもないよ。独り言。それよりお茶まだ?」
前世で神だった者は、生まれ変わった現世では、霊感の類を一切持ち合わすことができない。
だから、チョロ松兄さんは、おそ松兄さんを認識していないんだろうな。
「はいはい。お茶だよ。まったくね、『まだ?』とか言うなら手伝ってよね」
「手伝えるほどスペースのある台所じゃないでしょ」
チョロ松兄さんの淹れるお茶は薄い。
前世で、俺の淹れるお茶が薄いと文句言っていたくせに。
チョロ松兄さんが座ると、おそ松兄さんもその隣に、ちょんと座る。
――あ。この構図、あの時と同じ。
小さなちゃぶ台に両手で頬杖をついて、チョロ松兄さんを愛おしそうに、トロンとした目で見上げているおそ松兄さんが、ちょっと可愛らしく見えてしまう。
「おそ松兄さんの写真、置いているんだね」
「うん。一松は置いてないの?」
「置いてない」
だって、普通にその辺、ウロウロしているし。
今だって。
俺と十四松には見える。
こういう類が見えないと、仕事にならないから。
トド松は、前世の影響なのか、偶に見えることがあるらしい。
カラ松には、この類の力はない。
本来なら、さっさと成仏するのがマニュアルどおりなんだけど、おそ松兄さんの場合、生きた状態で人道を出てのことだったから、上手い具合にリスト漏れしたらしく、指摘も指導も何も入らない。
自由に浮いている。
おそらくは、チョロ松兄さんのその時が来るまで、こうしているつもりなんだろう。
――おそ松兄さん、望みどおり、いつもチョロ松兄さんと一緒に居られるようだけど、チョロ松兄さんに触れることは出来ないんだね。
そう思った時、おもむろにおそ松兄さんが動いた。
キュッと、チョロ松兄さんの腰のあたりに両腕を回している。
――俺に見せ付けているつもりなのかな。
子供みたいなところは変わらないというか、むしろ生身を手放してから顕著になった気もする。
まあ、前世では、女神よりずっと若年で、専ら甘えただったみたいだから、生身という殻が外れたことで、素が出ていると取れなくもないけれど。
「ところでさ、変な話しなんだけど」
チョロ松兄さんが、不意に切り出した。
「おそ松兄さんが、居なくなってから、ずいぶん経つけどさ、一松は、おそ松兄さんが側に居るような感覚になることってない?」
「え?」
「たとえば、今、そんな気がするんだよね」
思わず笑ってしまった。
「え?何で笑うの?」
「いや、たぶん、近くに居るんだと思う」
end
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