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久保蓮司の話③
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部屋の鍵を掛けるとベッドに腰掛けたシーナがほっとしたように息を吐いた。
部屋に招き、施錠して安心されるというのはいかがなものかと蓮司は思う。安心されてしまう自分自身の立ち位置という意味で微妙だ。一緒に暮らして半年、いつまでも緊張されるのも問題ではあるのだが。
中野邸に暮らすのはシーナと航平と双葉、そして蓮司の四人。各自室には鍵が取り付けられ、ひとつ屋根の下というよりは共有スペースのあるアパートといった暮らしぶりで、流行りのシェアハウスとはこういうものなのかと漠然と想像する。生活の時間はバラバラだから、お互い干渉する術自体がない。……シーナのことを除いて。
航平が遅い夕飯の片付けをしている隙に出し抜いて、自室へシーナを連れ込む。今まで一度も蓮司はそんな真似をしたことがなかった。なんだかんだで航平に気を遣う部分があった。
「ハヤヤンが一回くらいシーナと呑みたかったって」
撮影を翌日に控え、シーナのコンディションを考えるなら今夜は航平のところに泊らせるわけにはいかなかった。一夜まるまるシーナが蓮司のところに泊まるのはこれが初めてだった。
何度か打ち合わせたり食事をした林田には再三シーナを連れて来いと言われたが、最初に伝えた時にシーナの反応が芳しくなくてそれ以来林田の誘いは蓮司が曖昧に断り続けてきた。
「それは流石に。……航平がいいって言わないよ」
理屈っぽい双葉を容易く丸め込むくせに、シーナは航平に対してどこか顔色を伺うところがある。蓮司には、時折シーナが航平を恐れているように見えた。そう、この部屋の鍵を掛けてシーナが安心するのも、航平が入ってこられないからだ。
だが、同時にシーナが最も依存しているのも航平だった。航平の執着と、シーナの畏怖。それから奇妙に方向性のすれ違った依存関係。高校時代から知り合いだという二人の関係はどこか捻じ曲がっているように見えた。
「航平くん、怒ってるかな」
「最初から怒ってたし関係ないよ」
ひどいことされない?とは訊けなかった。きっと明日の撮影が終わってしまえば、酷いことをされるに決まっている。蓮司が間に入ってシーナを守ってやることも考えないではないが、それをすれば蓮司と航平の関係はきっと修復不可能になる。それをシーナが望むかと言えば否だった。
その上、シーナ自身は航平を畏れるくせに、航平に酷く抱かれることも望んでいるところがあるから一層タチが悪かった。
航平や双葉の部屋にあるような立派なベッドは置いていない。シーナをそこへ寝かせ、蓮司は自分が横になるためにソファの上に置いたままの衣類や荷物を床へと退けた。それに気付いたシーナが、蓮司の名を呼ぶ。何となく、そんな予感がしていた。だからこそ蓮司はこれ見よがしにソファの上を片付けようとしたのかもしれない。
仕方がない、と蓮司は自分に言い聞かせ、シーナの座る隣へと腰を下ろした。すかさずシーナの両腕が蓮司の腰に回り、抱き締めらて蓮司は眉を顰めた。ここでシーナを押し倒してしまえば、何のために航平から引き離したのか分からない。明日はあんなにも待ち望んだ撮影で、ようやく思う存分シーナを撮れるのに、こんなところで無理はさせられなかった。
「連れ出してくれてありがとう」
耳元で囁かれる台詞は更に蓮司の表情を険しくさせた。
どういう意味か、と乾いた口がシーナに問いかける。
納得ずくで、航平や双葉に遠慮しながら、必死でシーナのそばに居場所を作ってきた。深みに嵌らず、楽で美味しいところだけを頂くためだと自分に言い聞かせて、我慢したり諦めたりしていることなど数えきれないぐらいある。
「実はちょっと飽きてた」
なのにどうして、この男は、人の気も知らずに、こう気持ちがぐらつくようなことを言うのか。
シーナは楽しそうに言って、内緒だと自分の口元で人差し指を立てた。
「レンは、もう解放されたい?」
「……だから、どういう意味?」
「だって本当は、面倒だって思ってる」
「ああそうだな。面倒臭えわ、ホント」
シーナの手を取り、不安に揺れる瞳を見つめる。蓮司は吸い寄せられるように口付けて、シーナの唇を舐めた。誘ったのはシーナの方だ。開いた口の中へ強引に舌を捻じ込み、迷わずシーナの舌を絡め取った。ざらりとした表面を合わせると、ぞくりぞくりと快感が背を這い上がる。本当は最初からこうしたかったのだと蓮司は自覚した。
もう、解放されたい。
航平や双葉のことなど面倒で。ただ、自分だけでシーナのことを連れ出してしまえるなら。
「やっぱロケにすればよかった。北海道の、コスモス畑」
「泊りは……航平が……」
だからスタジオだけでシーナの撮影が完結するようにシーンを切った。けれど、そんな遠慮こそが本当は自分らしくなくて、それに気付かせたのもまた、シーナだった。
離れた唇はどちらのものとも分からない唾液に濡れて蓮司を誘う。
誘ったのはシーナだ。
だから押し倒したわけではなくて、引き寄せられた。蓮司には、自分より長身のシーナをこれほど容易くベッドへ縫い付ける術などない筈だった。
自分の身体に敷き込んで、もう一度口付ける。何度も唇を啄み、そのたびに漏れる吐息を味わいながら顎のラインへと移動する。首筋を舐め、歯を立てようとして思いとどまった先、代わりに耳朶を咥えるとシーナが擽ったそうに肩を上げた。
優しくすれば大丈夫。
航平とは違うから。
「航平とは、……違う」
「うん。知ってる」
シーナの腕が蓮司の首に回り、もう一度口付けを強請って引き寄せる。
強請ったのはシーナだ。
誘ったのは、シーナだ。
口付けながら寝間着代わりのTシャツの裾を捲り上げると、白い肌に桜色をした小さな乳首がシーナの呼吸に合わせて上下していた。触れて欲しそうに息づくそれを無視して、蓮司は胸元の筋肉に沿って指を這わせる。さらりとしているのに、それでいて吸いつくような肌は、触れるだけで蓮司を興奮させた。
「は……、っ」
「気持ちいいの?」
「……ん、擽ったい」
「マジで?」
「んっ、もっと……ちゃんと」
「どこ? 触ってほしい?」
顔を上げて尋ねると、シーナが困ったように眉を歪めた。ふいと視線を逸らす仕草が妙に幼く見えた。
綺麗で、卑猥で、可愛くて。
それが自分の指先ひとつで徐々に昂っていくのがたまらなく愛しい。
裾から入れた両手をそのまま袖へ向かって腕の内側から沿わせると、上半身はあっけなく露わになった。最後に襟元から頭を通して、けれど手首で絡まる布は頭上でそのままに、片手で上から抑え込んだ。
それほど強固に自由を奪ったつもりはない。解こうと思えば簡単に解ける束縛を、シーナは外そうとはしなかった。
拘束されることに馴れた身体は、あたかも両手首が頭上で交差している状態こそが自然であるかのように見えた。
「ん……っ、レン……っ」
そっと乳首を舐めてやるとシーナの背が反って、もっとと強請っているようだった。舌先を細かに動かしながら蓮司は全身へと手を這わせ、面白いように震える身体を堪能する。弾む息の音はすぐ近くで聴こえた。
膝を立てさせ、太腿の内側を撫でる。持ち上がったそこを中心に何度も手を往復させると、擦り付けるように腰を揺らし始めるから下も脱がせて、シーナが纏う布は手首に絡まるTシャツだけになった。
ローションを取りに行くのももどかしい。
性急な自覚はあった。
傷付けるわけにはいかないのに、蓮司は唾液だけ絡ませた指をアナルへとゆっくり沈める。
「ん……っ、ん……」
苦しそうに眉を寄せてシーナが呻く。
こんなに易々と挿入るはずがなかった。
「……もしかして、航平――」
「昼終わった時に、一回帰ってきたから」
弾む息を整えながら、シーナは悪びれることなく言った。
蓮司の指を根元まで銜え込んだ媚肉は綻んで、拒むことなくシーナの体温を伝える。
「航平くんとヤッたんだ?」
シーナはなぜ自分が責められているのか分からず、戸惑った様子で蓮司を見上げる。蓮司の方も、なぜ自分が怒っているのかよく分からなかった。
ただ、無性にイライラする。
どうせ航平と寝たくせに答えない態度も、とっくに解放しているのにいつまでも頭上に留め置かれたままの両手も、何もかもが腹立たしい。
「もうちゃっかり航平くんのちんぽ銜え込んでヒィヒィ鳴いた後ってんならさ、航平くんから引き離してこっち連れてきた意味なくね?」
戸惑いが、はっきりと怯えに変わる。
航平はいつもこんなシーナの姿を見てたのか、と思った。
(そりゃあ止まらなくなるわな)
航平に対して同情する気持ちすらあった。
いつも穏やかで澄ました顔をしたシーナが、自分に対して畏れを感じて怯える姿はゾクゾクするほど煽情的だった。結局は男同士、相手を支配して屈服させたいと思うのは本能なのかもしれない。
「……っ、い、レン……っ」
二本目を飲み込むそこがギチギチと悲鳴を上げる。緩んではいても、圧倒的に潤いが足りない。捻じ込むような形での挿入に、シーナが苦しそうに喘いだ。
「俺が遠慮してる意味だってないんじゃねーの?」
はぁはぁと呼吸を繰り返し、シーナは必死に力を抜こうとしていた。シーナの中には拒むという選択肢がない。だから昼間に帰ってきた航平に迫られれば受け入れるしかなかっただろう。
「あっ、あ、アァッ……レンッ、レン……っ」
ナカを探る手に向かって唾液を落とし、蓮司はその滑りを借りて更にシーナの身体を暴き立てる。高く上がる声はまるで麻薬のように蓮司の中心を昂ぶらせていく。シーナは頭上でシーツを握り締めて必死に何かを耐えていた。
日に当たることのない白い肌がしなやかに仰け反って震える。摩擦の少なくなったそこは、もうただ柔らかく蓮司の指を締め付けて奥へと誘う。
誘ったのも、強請ったのも、そして煽ったのもシーナだ。
蓮司は深く息を吐き出すと、猛る自身を取り出して二、三度扱いた。
「航平くんとは違うからさぁ……」
うっすらとシーナが目を開ける。もう怯えの色はなく、ただ素直に快楽へと溺れた瞳が濡れていた。
「うん……、分かってるよ」
何を分かっているのか、シーナは微笑む。
哀しいわけでもないのに蓮司は泣きたい気分でシーナの中へ己を埋めた。
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