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焦がすほどに熱く
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時刻は深夜の2時を迎えようとしていた。
鼻歌を歌いながら、ぼーっと何処かを意味なく見つめる木吉を、ひっそりとベッドに横たわりながら見つめてみる。まるで乙女の様に。自分よりも逞しく引き締まった、筋肉のよくついた体のパーツからは、目にこそ見えないはずなのだが熱をその自身から放出しているように見えた。先程まで、安心させてくれた大きな手はかろうじて見えた。その手がいま、少しばかり離れてしまっているということが、こんなにも苦しくさせるなんて、知らなかった。
「木吉、」
「はい?」
曖昧に歌うこととを止めて、彼はやっとこちらに振り返った。「なにか?」と問われたところで何も無いことに気付いて、勢いで声をかけたことに思わず後悔をした。しまった、なんて今更だけど。
ふふと小さく笑ってベランダから、少しずつ近寄ってくる彼の気配。間もなく目の前が暗くなって、目を大きく見開いた。
「あれ?どうかしましたか?」
「…いや。何でも、無い、です。実は」
「ふはっ…、何でそこ敬語になるんですか。何も無いことないでしょ。あ、もしかして腰が痛いとか?」
「そりゃあ痛いけど、もう……慣れてるから」
「それはその、……すみません」
申し訳なさそうに謝る声が聞こえて、ゆっくりと逞しい腕が伸び、頭を優しく撫でられる。あまりの気持ちの良さに目を細めて犬のように甘えてみれば、また、小さく笑う声が聞こえた。ん、と目を開けば顔をくしゃくしゃにして笑う彼がいた。
「なに笑ってんだよ」
「や、犬みたいだなって。当麻さんが甘えるなんて、珍しいんですもん」
「お前が犬扱いするから…」
「犬扱いなんてしてないですよー。当麻さんは気分次第でこうやって甘えてきたり、普段は素っ気なかったりするし……。どっちかって言うと猫っぽいです」
「んだコラ」
「可愛いいってことです!そんなとこも!」
慌てて訂正しながらも、彼の甘い言葉と声が染み渡り、その作用か瞳がぐらりと揺れて、しっかりと彼だけを見つめてしまった。きっと顔は真っ赤になって熱くなっているだろうけど、幸い部屋の明かりは消してあるから彼にバレることはない。良かったとほっと胸を撫で下ろしたところで、突然骨張った指が頬をなぞり、唇まで伸びてその形を確かめる様に、するりと軽く撫でた。こそばゆいその感触に思わず体を揺らして反応した瞬間、こそばゆい感触が消えて、深い口づけが代わりにされる。
「………ん、…っ、」
奪われた呼吸よりも彼を感じられる方がよっぽど嬉しくて、苦しくても長くこのままでいたくて、あわよくば時が止まってしまえ、だなんて有り得ないことを考えながら、自分より一回り以上大きな彼の身体に身を寄せて、首へと腕を回す。
力をこっそり強めれば、比例して負けじと彼も激しく咥内を犯してくる。絡まる唾液が熱くて流し込まれる全てを飲み干すと、体内が溶けてしまいそうな気さえした。
「…っはぁ、木吉、……っ」
「エッロい…。なんすかその顔…!」
荒い息を繰り返す自分を見つめる彼の瞳が、獲物を見据える獣の様で、彼が自分に対して欲情しているのだと思うと、身体の奥からジワジワと何かが沸騰している様な感覚に襲われた。きっと、自分も彼の獣のような瞳に欲情しているのだ。
「…木吉、」
「はいっ、なんでしょう?」
「好き、です。」
「ふは…、何ですか突然?」
照れたのか、顔をしわくちゃにして笑い、ぐりぐりと頭をまるでペットにするかの様に様に撫でられて、思わずムードを掻き消されたことに笑ってしまった。
甘い甘い空気は何処へやら。一瞬にして消えてしまった空気が名残惜しい気もしたが、案外いつもと変わらないこの雰囲気も嫌いではなかった。
「さっきみたいに、その、ヤラシいことするのも、美味い飯食うのも、お前とすることが何でも良くって。…なんか、こうして近くに居られるだけでも嬉しいんだ」
「〜なんですか、それっ!何ですかその誘い方!」
「誘ってねーよ!腰いてーし!バカ!」
「バカなのは当麻さんですよ!そんなこと言わないで下さいって。たかがそんなことくらいで、」
「そんなことぐらいで、俺は幸せなんだよ」
バカ、と言われたけど、あまりにも穏やかな声で言われたせいで、その言葉の本来の意味とは少し違った意味合いで受け止めてしまった。近くに居られるだけで、胸が弾けてしまいそうなくらいに幸せなのに。
(好きな人を目の前にして好きと言えること、好きな人に好きと言ってもらえること、触れ合えること、全部全部幸せなんだよ)
普段見ている顔とは打って変わって、蕩けた様にだらしなく笑い、ゆっくりと覆いかぶされる。よく抱き締め殺されるだなんて思う瞬間があるのだが、そんな力で腕が力強く抱き締めてきて、その腕が離れまいと背中に腕を回した。背中が熱を帯び、しっとりと汗をかいていた。指先に触れた汗だけは少しだけ冷たい。自分の体温が全て彼に流れて、二人して互いの熱で溶け合ってしまえばいいのに、なんて思いながら力を込めた。
「………当麻さん」
「な、んだ、よ?」
「愛してる。」
真上から落とされた爆弾は、俺の身体を引き裂いて神経から細胞にまで行き届き、身体中を痺れさせた、気がした。その痺れは上へ上へと上がってきて、ついには涙腺を壊した。
「……ばかっ、」
「ん、…あれ、ちょっと泣いてます?」
「なんかまずいこと言いました?」なんて優しい心配をしてくる彼の唇にすかさず触れる。体重をかけて上に上がったせいか、バランスを崩しそのまま彼が下に崩れ落ちてきた。もちろん腹を初めとして、身体全体に感じた痛みだが、そんな痛みなど苦になるものではなかった。
(……なんで、そんなこと、恥ずかしげもなく言うんだよ!)
ぎゅうぎゅうと力を入れて抱き寄せれば、耳元で鼻で笑う声が聞こえた。
「あのですね、」
「こんなことくらいで幸せ言ってたら、アナタ、これから先何も言えなくなりますよ」
なんて、殺し文句だろうか。まさかこれ以上の幸せなんて、もう何も考えつかないけれど、そんなことを言われたら期待せずにはいられない。どんな幸せが、待っているのかなんて考えつかないけれど。
「俺がアナタを好きなのは、当たり前の話だし。アナタが俺のことを好きなのと同じことでしょ?」
これ以上の幸せなんて思いつかないし、何が待っているのか分からないけれど、再び重なった唇から注がれる熱に、飽きずにまた涙を流して彼に全てを捧げるように力を抜いた。
(注がれる熱に、焦がされたって構わない。)
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