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素晴らしき日常10
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(葵語り)
暗い室内で、ただ1つ明るく照らされた白い椅子に、一瞬女性かと思うくらい華奢な人が男性にエスコートされて入ってきた。
よく見たら胸も平らだし、余計な脂肪は全く付いてない。男の人だとすぐに分かった。艶々の黒髪に、赤い唇がにっこりと笑う。
この人が雅さんだ。
そして、背もたれのある重厚な椅子に浅く腰掛けて、足を開いた。一呼吸置いた途端に表情がガラリと変わる。まるで人形のような、無機質な瞳になった。ガラス玉に似たグレーの瞳に吸い込まれそうだ。雅さんが履いている股上の浅いショートパンツも、椅子も、肌も白くて目がハレーションを起こしそうになる。
そこへ、男性が入ってきた。服装が黒づくめだから、益々雅さんの白さが浮き立つ。この人が轟さんの言っていたお父さんだろう、彼が持っていた赤い縄の束に、雅さんが愛おしそうにキスをした。
それから、無音の中で縛り始めた。不思議なことに、音楽がなくても縄の擦れる音がリズミカルに耳に入り、無音が心地よいと思える程だった。
幾何学模様を自身の身体へ作成している最中に、雅さんの表情は段々と上気してくる。真っ白い世界から、深紅の縄を通して身体も頰も赤く染まっていくのだ。甘い吐息を漏らしながら縄を受け入れいく姿は、観客の誰もが官能的に感じているだろう。
俺はドキドキしながら、目が離せずにいた。
轟さんは身じろぎせずに、瞬きもしているのかも不明で、雅さんを見守っている。
島田は……なんと泣いていた。さめざめと涙を流しながら、ステージの『姫』を凝視している。やっと会えて感激しているのだろうか、泣いている島田を俺は初めて見た。
荒い息遣いと、緊張した時間の後、椅子に縛り付けられた雅さんが完成した。弓なりに反った背中がとても綺麗で、スポットライトに照らされた裸体には汗が滲んでいる。
汗ですらエロティックで、匂い立つような色気を感じた。轟さんが芸術と表現したくなる理由が分かった気がした。
少しの間を置いて、縄が解かれて行く。難解なパズルを読み解くかのように縄が絡まる事も無く、簡単に外されていった。縛るより解くことの方が断然難しそうに見えたが、プロは涼しい顔で雅さんの身体を自由にしていく。
そして赤い縄が床に全て落ちた時、彼の表情に生気が宿った。縛られていた『モノ』から『ヒト』へ戻ったのだ。
割れんばかりの拍手の中で、雅さんが立ち上がり、愛くるしい笑顔を見せた。
スポットライトが消されて、主役が舞台袖へ捌けていった。あまりの迫力に言葉を無くした俺たちは顔を見合わせる。泣き続けている島田の涙を指で拭ってやった。
「ふぇ……なんか凄かった……雅さんに会えてよかったよぉ……」
「うん。そうだな。良かった良かった。」
最後の方は感極まりすぎて、島田が何を言ってるか解読不能だった。適当に相槌を打つ。
すると、俺たちの前へ誰かがやってきたのだ。最初に気付いたのは気配よりもいい匂いだった。嗅いだことの無い、淡い花弁のような香りがした。ふわりと鼻腔をくすぐる。
「もしかして……マリちゃんだよね?うわぁ、大っきくなって。大人になってる。久しぶり。会いに来てくれてありがとう。」
わしゃわしゃと島田の髪を掻き回し、涙で濡れた頰を持って、いきなり熱烈なキスをしたのだ。
「み、やび……さん………?」
呆気に取られた俺は、その光景に釘付けになった。いや、会場全体の観客が島田と雅さんに注目している。
隣の轟さんからも小さな悲鳴が聞こえた。
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