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素晴らしき日常13
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(葵語り)
「せーんせ、待った?」
「ううん。今来たとこ。早く乗って。今日は冷えるから、見回りも寒かったよ。」
自分の場所である助手席に腰を下ろす。
異世界にいたような心地だったから、愛しい人の顔を見ると安堵する自分がいた。
いつものタバコの匂いに落ち着きを取り戻す。
「あれ、香水付けたか?花の匂いがする。爽やかないい香り。葵が香水付けるとか珍しいな。どうしたんだ?」
「え、あ……んーとね……これは雅さんの。島田に気付いてくれて、話ができたんだ。握手をした時に匂いが付いたのかも。」
「ふーん……そう。」
雅さんの香りに直ぐ気付かれた。同時にさっきの唇の感触が蘇ってくる。柔らかい唇と雅さんの笑顔に再びドキドキしそうだったので、それを振り払うかのように先生に寄り添った。
あのキスは夢の世界への置き土産だ。だから、先生には内緒。島田しか知らないから、尚更バレる事は無い。後で奴にも念押ししとこう。真面目に考えると先生に対する罪悪感でいっぱいになるから、無理やり思考を停止した。
先生はいきなり寄り添った俺に驚いたものの、優しく頭を撫でてくれた。つむじから、うなじまで、手ぐしが何度も往復する。気持ちが良くて暫くやってもらっていた。その間に、見てきた緊縛ショーについて少し話をした。
「楽しかったみたいだな。話を後でゆっくり聞かせてよ。じゃあ帰ろう。腹は減ってないか?」
「うん。平気。先生は大丈夫?」
先生は見回りの際に食べてきたからお腹は空いていないらしく、そのまま家に帰ろうとサイドブレーキを解除した時だった。
ふいに先生の携帯が鳴った。
仕事上、携帯を無視できないので、再びサイドブレーキを入れ、液晶を確認する。
見た途端、先生が驚きの声を上げた。
「久しぶりに野田からだ。ちょっと待って。これ……葵じゃないかって言うんだけれど……えっ、マジかよ。確かに葵だよな。青いマフラーして、服もおんなじだ。横顔もバッチリ写ってる。」
今の世の中は、情報が回るのが早い。特に有名人が何かをするとあっという間にSNSで拡散されて、コメントで溢れかえる。
雅さんは有名人だ。CMに出てから、みんなが躍起になって彼の素性を探ろうとしている。島田みたいに緊縛ショーへ辿り着く人も少なくないのだ。室内は撮影禁止で監視の目が厳しいが、外ではそんなことは無いだろう。迂闊というか、全く気にもしていなかった。
そこにはキスをしている俺と雅さんの写真が載せられていたのだ。
自分が言うのもなんだけど、うまく撮れている。見る人が見たら俺だと分かるらしく、どういう経緯で野田さんがこの写真を発見したのか不明だが、見知らぬ他人が勝手にアップして、甚だ不快だった。
そして、写真はすごい数の人が共有している。まさか撮られていたとは、頭を鈍器で殴られた気分だった。先生に見られたことが何よりもショックで、別の意味で心臓がドキドキと波を打った。
気配を消していた轟さんも画面の端っこで写真を撮ろうとしているのが確認できる。こんな時は姫を守らないのかよ。自分も同じになって撮ってるんじゃねーよ。と、憤りをぐっと飲み込んだ。ばかばか。
「………ごめんなさい。不意打ちだったんだ。まさか……ごめん。」
消え入りそうな俺の声に、先生が長いため息をついた。
「こういう綺麗な男の子同士のキスを喜ぶお姉さん達は沢山いるんだよ。気をつけなきゃ。それに、俺の葵がみんなに晒されているのがすごく嫌だ。自分の取った安易な行動を分かってるのか?」
項垂れて頭を下げている俺に、無理やり顎を上げさせ、いきなり舌を差し込んできた。
息をする暇もなく、唾液も舌も全て吸われてく。ようやく離された時には酸素が足りなくて肩で息をしていた。
先生の気持ちは分かるけど、これは不可抗力なんだって。
「はぁ…はぁ…待って。先生が怒るのも分かるけど、しょうがなかったの。俺だってショック受けてるもん。」
「大人気ないって分かるけど、許したくない。さっきのキスでも足りなかった。さっさと帰るぞ。話は家に帰ってからだ。」
再びサイドブレーキを解除し、車は自宅へと走り出した。
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