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ビギナー1
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(神田語り)
冬の空の薄青色は好きだ。見ていて落ち着く。
特に国語準備室からの眺めは最高だ。元々丘の上にあるこの学校は、天空にあるお城みたいだと常々思っていた。勉強について行けない俺にとって高台からの景色は、ストレスフル生活からの癒しだった。夕焼けが重なり更に悲壮感が漂ってくると、バイトの為に帰る時間となる。
俺は、デスクで黙々と仕事をしている春馬先生を横目で確認した。
何かをブツブツ呟きながら、古典の教科書と睨めっこをしている。時々聞こえてくる単語は枕草子みたいで、衣(ころも)がどうこうしているようだった。全然意味が分からない。
俺たちが『お付き合い』を始めて、3ヶ月が過ぎた。『恋人』と表現していい間柄なのかな……?よく分からない。春馬先生が俺をどう思っているか分からないし、今更聞きにくい。あまり『好き』とは言ってくれないから、余計に怖いのもある。
先日のバレンタインでは、一丁前にチョコレートだってあげた。一緒に準備室で食べて、いつもより甘い雰囲気だったと思う。手だって繋いだし、キスもした。春馬先生に触れられると、股間がきゅんってなるから、やや前かがみになりながら口付けに耐えた。
でも、準備室にはひっきりなしに女の子がやってきて落ち着かなかった。デスクに山盛りに積んであったチョコはどこ行ったんだろうか、今は跡形もなく何も無い。
「紘斗。今週末は空いてるか?デートしたいんだけどさ、どう?」
見つめている俺に気付いたのか、春馬先生がこちらに視線を投げかけてきた。
整った大人な顔にドキドキする。
耐えられなくなった俺は、咄嗟に視線を逸らして下を向いた。この人といると動悸が早くなり、息も苦しくなる。無性に酸素が欲しくなってしまう。
「週末は……バイトだから……ダメです。」
「また?先週もバイトだったじゃないか。今週は開けとくって言ってただろ?」
「用事があるから変わってくれって言われたんです……すみません。」
「はぁ……いつもここばかりでつまんないだろうから、外に連れ出してやりたかったのに……バイトならしょうがない。」
本当はバイトをワザと入れたのだ。春馬先生は休日になると誘ってくれるけど、正直俺の身体が保たない。
いつも何を話したらいいのか、どこで息を吸ったらいいか分からなくなって、アップアップしてるのが常だ。それが一日中って、死んじゃうんじゃないかと思う。
大体、『春馬先生』って呼び方も良くない。呼べって言われたからしょうがなく呼んでるけど、年上に名前で声かけるとか、緊張するし慣れない。ようやく『紘斗』と呼ばれることには抵抗がなくなってきたのに、呼ぶ側もこんなに大変だとは思わなかった。
「来週は絶対に空けておいて欲しい。約束だからな。」
「は、はい。分かりました。」
俺が必死に頷くと、頭を優しく撫でられた。それが心地よくて軽い気持ちで見上げたら、不覚にも目が合ってしまう。春馬先生の目が細くなり、顔が段々近付いて来た。
こ、これってもしかして……キスか?
うわ、うわわわわ……無理。ドキドキし過ぎて耐えられない。
「先生っ、バイトの時間なんで帰ります。また明日来ますっ………」
「え、あ?…………また明日な。」
俺は慌てて教科書を仕舞い、帰る支度をして国語準備室を出た。
やばかった。また股間がきゅんってなりそうだった。これって何なんだろうか。
すれ違った熊谷先生にも気付かずに、猛ダッシュで廊下を駆け抜けた。
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