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ビギナー6
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(神田語り)
「おじゃまします……」
「俺の家じゃないけど、どうぞ。今日は早いって言ってたから、もうすぐ先生も帰ってくるよ。」
葵さんが鍵を下駄箱の上にある白いお皿に乗せた。ピンクの水玉風呂敷を背負ったシロクマのキーホルダーが付いている。俗に言う合鍵ってやつだ。可愛いすぎる。
「熊谷先生、帰ってくるんすか。じゃあ……俺は失礼しまーす。また……」
「待って。折角だからお茶でも飲んでってよ。先生は大丈夫。怒ったりしないから。もう暗いから1人で帰るのは危険だし、先生に送ってもらうおうよ。少しだけ。ね?」
本気で帰ろうとしたら葵さんに引き止められた。この辺りはひったくりや通り魔が出るらしく、遠慮しても葵さんが頑なに譲らなかったので従うことにする。
熊谷先生の家は、元はシンプルな家具で構成されていたに違いないが、所々似つかわしくない雑貨やキャラクターものが置いてあり、葵さんの趣味なんだと伺えた。そして綺麗に片付いている。愛の巣を邪魔しにきた場違いな余所者の感じがして落ち着かない。
洗濯物を取り込んだり、お湯を沸かしたり、主夫みたいな葵さんを眺めていた。俺でもこの人の可愛さは分かる。家で待っていると思ったら毎日急いで帰るだろう。
そんな熊谷先生を羨ましく思った。
「神田君はさ、お父さんが出張が多いんでしょう?1人でご飯食べてるの?」
ソファの前にあるローテーブルにコーヒーが置かれた。青い小花柄のマグカップをくるりと回して葵さんが聞いた。
「父さんは出張と残業で月の半分以上はいないから、1人ですね。バイトもあるし、なんとか暇にならずにやってます。1人は気楽でいいっスよ。」
「そうか。神田君さえ良ければ、またこうしてご飯食べない?先生は残業で遅いことが多いし、ご飯作っても余るから困ってたんだよ。神田君が来てくれると助かる。」
「えっ本当にいいんですか?」
「もちろん。それにね……」
葵さんが続けて口を開こうとした時、玄関の鍵が開く音がした。家主が帰宅したのだ。
「先生、お帰りなさい。」
「ただいま……おい、これって神田だよな。」
「正解。神田でーす。熊谷先生、お疲れ様です。」
「安定のウザさだな。疲れがどっと出たわ。」
葵さんが出迎えて事情を説明すると、家主は俺を冷たく一瞥した。『何故お前がいる』という冷ややかな視線を感じたが、葵さんの好意に包まれている今、怖いものは何も無い。気にせず平然としていた。
それに熊谷先生は何よりも葵さんに弱いことを知っている。へっへーん、平気だもんね。
「ふーん。分かった。神田……後で送ってやるからちょっと待っとけ。それよりも腹減った。葵、何か食わして。お前ら食べて来たんだろう。ズルいよな。あー、疲れた。」
葵さんが、食堂で買ってきたフライをお皿に並べて、温め始めた。お腹を空かせて帰ってくるであろう恋人を見越して夕飯のおかずを買って帰るとか、普通の大学生の域を超えている。妻みたいだ。
「はい、立花食堂のおばちゃんが先生によろしくって言ってたよ。卵焼きおまけしてくれた。卵の仕入れミスで余ってるんだって。」
「おおー、立花に行ったのか。いただきます。うまそ。」
「それは、春の新作でおばちゃんの自信作。俺も食べたけど、美味しかったよ。」
やったーと子供のように喜んで食べ始める熊谷先生と葵さんが他愛もない会話を始めたので、俺は室内の観察を続けていた。ここのダイニングから、寝室に使っている部屋がチラリと見える。
言っておくけど、見えてるんだ。覗いた訳ではないからね。片付いている別の部屋とは違い、ベッドの上には乱れた布団や枕が散乱していた。ベッドは1つしか無いから、2人はここで寝ているのだろう。
さっき、葵さんが見せてくれた動画は、俺には刺激が強すぎてギブアップしたけど、実はモヤモヤしていた。画面の中では、べろを出し合って、目を閉じながら長い間キスしてた。気持ち良さそうに、身体を触りあいながら、ちゅーって……ちんこも触ってた。
視線を、笑いながら会話をする2人に戻す。この人達もやってるんだろうか。ちゅーってしてから、いやらしく触り合いしてるのだろうか。
裸の葵さんに、裸の熊谷先生。2人は恋人同士で仲が良い。熊谷先生は葵さんにメロメロだ。葵さんだって触られたら、頰を赤らめて甘えたりするに違いない。
ぐるぐると血が上ってきた。なんだか頭が熱くて、ふらっと身体がよろけた。
普段とは違う生暖かい感覚が鼻から流れてきた。ポタリ、ポタリと重くて赤い雫が床に落ちる。
「うわっ、神田君。鼻血出てる。ひゃー、凄い量。先生、ティッシュ取って。」
「神田っ、人の家を汚すな。何食べたらこんなに出んだよ。上向いて鼻を押さえろ。若いなぁ。どくどくいってんぞ。」
「ずみまぜん……ぁ、どまらない……」
2人がかりで止血してもらい、ぐったりした俺はソファで横になっていた。
情けなくて涙が滲んだ。
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