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ビギナー11
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(片桐先生語り)
外来の時間が過ぎた総合病院は閑散としていた。挙動不審な紘斗の手を引いて、おばあちゃんが処置された外科病棟を目指す。
元来、心臓の持病があるらしく、倒れたのは今回の1度ではなかったようだ。
病室にはお父さんが既に付き添っており、簡単な挨拶をして、全くの部外者な俺は病室を離れた。関係ない人がいたらお父さんも困惑するだろう。俺は送り届けただけだ。
さて……帰るか。役割は終わったし、後のことは親子で決めればいい。今から学校へ戻っても遅すぎる。明日の早朝出勤で残務整理をすることにして、早々と帰宅しようと思った。
それに、熊谷に何言われるか想像しただけで頭が痛い。あいつも同じことやっていたくせに、俺には言いたいことを言うからタチが悪い。熊谷の方が間違いなくエロ教師だと思う。
病院から去ることを伝えようとしたら、紘斗が曇った顔で病室から出て来た。
「どうした?おばあちゃん、大丈夫だったか?」
「うん。大丈夫みたい。薬のせいでずっと寝てる。手握ったけど反応が余りなかった。明日まで覚めないから、帰れって。付き添いは1人でいいみたい。折角連れて来てくれたのに、ごめんね。」
「顔を見て安心できたと思えば、来たのも無駄じゃないよ。落ち込むなって。」
「すごく安心できた。顔色は悪くなかったよ。手も暖かかった。たださ、いざ事が起きた時、力になれるのは大人なんだって痛感した。俺じゃ全然役立たずで、悔しい。」
「世間では高校生は半人前だからしょうがないよ。あと2、3年の辛抱だ。」
「そういうもんだよね………分かってる。」
どうやらお父さんからは、見舞いは明日以降にしろと電話で言われていたようだが、全く聞いていなかったらしい。実に彼らしい。
こうして、紘斗の見舞いは30分程で終わった。
エレベーターに乗り込むと、紘斗がもじもじしながら何か言おうとしていた。いつも言いたいことは思いつき次第すぐ口にするのに珍しい。
「あ、あの……春馬先生……」
「トイレなら1階にあったけど、どうした?」
「ち、違うって。あのう……今晩、俺と一緒にいてくれないかな。さっきからずっと震えが止まらないんだ。怖くて怖くて、1人になったら耐えられないと思う。お願い……側にいて欲しい……春馬せんせ……お願い。」
きゅっとシャツの裾を握って、紘斗が小さい声で言った。おばあちゃんに会って、緊張は解けたものの、死と隣り合わせなことには変わりない。大切な肉親を失うかもしれない恐怖に耐えられなくなったのだろう。1度考え出すと、心が負に侵食されてしまう。飲み込まれて不安から抜け出せなくなるのだ。
そっと肩を抱くと小さく震えていた。
親の前で隠した感情を、俺には正直に伝えてくれた。それだけでも愛おしい。
照れ隠しの為に、両手で紘斗のほっぺたを軽くつねると、柔らかくて思いの外伸びた。俺が恥ずかしがってどうすんだよ。
「もしかしたら、3日前みたいに襲うかもしれないよ。それでもいいの?」
「ふぇ………ぁっ、えっと……うんと……いいよ、側にいてくれるなら、うん。春馬先生なら……いいよ。」
あからさまに目を泳がせながら赤い顔で頷かれた。それを見ながら、キスしたい衝動に駆られるも、耐える。
自分が本気で男を抱きたいとか、そんな感情があったことに心底驚いていた。
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