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夢の外へ5
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(葵語り)
先生からのお説教を受けてから、特に何も起きる訳でもなく平穏な春休みは終了した。
進路なんか全く考えていない。語弊があるので説明しておくが、怠け者ではないのだ。
将来どうしようとか、どうしたいとか、そのような考えが湧いてこない。ただ一つ思うことは『健康で元気に笑って暮らしたい』ぐらいだ。
その話を真顔で先生に話したら、大笑いされた後、熱は無いかとおでこを触られた。
本当に失礼な大人だ。俺も年齢は大人だけど、先生みたいな現実主義だけにはならないでおこうと心に誓った。
ゴールデンウィークが終了し、いつもの生活が再開した。4月には先生に言われた通り、学内セミナーにも数回出席した。リクルートスーツを着て、合同企業展たるものにも参加したが、本当につまらなかった。働いてみようと思える企業も無かったし、学生の表情がみんな死んだ魚みたいで、雰囲気だけで暗い気持ちになった。社会の歯車にはまらなくていいから、人として幸せに暮らしたいな。
今日のバイトは島田が休みだった。
CaféRは駅裏にあるので、ランチタイムとティータイムはそこそこ混んでいる。開店11時前に並ぶお客さんもいる。お目当は美味しいランチやスィーツだけでなく、イケメン店長の彗さんと、犬みたいな店員の島田だろう。
島田はあんな性格をしているが表の顔は人当たりが良く、お客さんには優しい。女子高生にファンが多く、キャーキャー言われていた。アイドルみたいな扱いに満更でもない島田だったりする。
今日はいないので、島田目当ての女子高生はあからさまに残念な顔をして帰っていくのだろうと思うと少し気の毒に思えた。
「いらっしゃいませ……ぇぇと、島田じゃん。休みなのに何の用?……ん?その恰好……」
「葵君、お疲れ様。今日はね、みーたんのお散歩。一日パパしてんの。」
なんと、島田は『抱っこ紐』に赤ちゃんを入れて、背中にはリュックを背負っていた。ソファ席に座り、慣れた手つきで彼女を抱っこ紐から降ろした。
ピンクの服を着た赤ちゃんが興奮したように言葉を発し、島田は嬉しそうに頬を寄せた。
この子が島田の姪っ子の『雅ちゃん』である。島田は彼女にメロメロで、暇があればお世話しに実家へ帰っているそうだ。今日は、連れ出して面倒を見ている。
母親の睦月さんは気が気じゃないのだろうか。
「うーんと、アイスコーヒーください。後ね、お湯も頂戴。」
「お湯?」
「うん。みーたんのミルク用にお湯ください。みーたん、葵君だよ。覚えてるかな?僕の大好きな人。いくらみーたんでも、葵君は駄目だよ。あげないからね。」
「だーーーだーーーうーーー」
丸くて大きい目と、白いもちもちの肌が赤ちゃん特有で可愛い。それに、雅ちゃんからは皆から愛されているオーラが伝わってくる。温かいものに包まれて、ニコニコと笑っていた。
伸ばされた小さな手に触れると、ぎゅっと握って俺に見てくれる。赤ちゃんって、そこにいるだけでパワーを発している。大きくなることが仕事で、この先には輝く未来が待っていて何も怖いものがない。羨ましい。
「今何カ月なの?この間会った時より大きくなってる。」
「7か月になる。お座りも上手にできるし、離乳食だって始めてるよ。葵君、とにかくお湯を頂戴。冷めるまでに時間がかかるんだから、早めにミルク作らないと、みーたんのお腹が減っちゃうでしょ。」
「ごめん。アイスコーヒーもオーダー通してなかった。急いで作ってくるから。」
雅ちゃんは、雅さんの緊縛ショーを見に行った夜に生まれた。島田が敬愛する雅さんから同じ名前を付けたのだ。
若い1日パパは、人と待ち合わせしているらしい。雅ちゃんのミルクを手際よく作ってから、冷めるまで彼女を抱っこしてランチを食べ始めた。
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