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夢の外へ6
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(葵語り)
「葵君、食べにくいからちょっと抱っこしててよ。みーたん、いいねぇ。綺麗なお兄さんに抱っこしてもらって。今日のカレーは野菜カレーか。美味そ。いただきまーす。」
ポンっと赤ちゃんを手渡されて焦る。落としてはいけないと、抱く腕に緊張感が走った。
「雅ちゃん、こ、こんにちは。」
「あーーーうーーーー」
雅ちゃんのビー玉みたいなくりくりの瞳がジーっと俺を見据えている。俺の顔を見ても何にもないのに、何か変な物が付いているかのごとく凝視されていた。涎が垂れてきたので、蝶々模様のスタイで拭ると、にたぁと笑ってくれた。可愛くて顔が綻ぶ。
14時過ぎでお客さんも少なくなり、あっという間に手の空いたスタッフさんに囲まれる。
俺ではなく雅ちゃんが人気者なんだろうけど、気分は悪くなかった。俺から女性スタッフさんへ彼女が渡り、慣れた手つきでおむつ替えの後、ミルクまで貰っていた。
なんというか、女の人の方が気が回る。男は所詮、男なのだ。以前、男性と女性の脳みその違いをテレビで観たことがあるが、女性は五感で感じ取る変化に敏感だそうだ。男性はその正反対で鈍感で、感情表現が豊かではないし、同時に他事をするのが苦手。正に俺のことだ。
だが、見た目とは違って、俺より先生の方が気が付くことが多い。ちょっとしたことでも気にかけてくれている。性格の問題もあるだろうけど、先生は案外気配りやさんだ。
だから学校の先生が務まるのだろう。
「みーたん、楽しそうで良かった。ママ……睦月さんがね、ちょっと疲れていたから、半日でもいいからって子守を申し出たんだよ。ここに連れてきて正解だった。ゆっくりランチが食べられて、安心できるから。幸いなことにみーたんは人見知りしないからね。えーっとママに報告しとかなきゃ。」
島田は、今日のランチの野菜カレー大盛りをぺろりと平らげ、デザートのフルーツヨーグルトを食べていた。そして、みーたんの様子を睦月さんへラインで報告している。
このごろの島田は雅ちゃん中心で生きている。バイトの休みの度にこうやって散歩したりしているのだそうで、子供服にもやたら詳しかったりする。
「そう言えば……島田は誰かと待ち合わせしてるんじゃなかったっけ?」
「そうだよ。みーたんを雅さんに会わせてあげようかと思ってて。葵君から聞いたよって先週連絡があったんだ。」
島田は、ずずーっとアイスコーヒーを一気に吸い込んだ。
先日、先生と出掛けた時、出先で雅さんに会った。互いの秘密が露見してなんとも言えない空気はあったけど、会えたことは素直に嬉しかった。似ても似つかない同級生である東雲の顔が頭に浮かび複雑な気分になる。
誰にでも人に言えない秘密はあるものだ。
「雅さんが来るの?ここに?」
「うん。待ち合わせは3時だから、もうじき来る。caféRの場所は知らせてあるもん。あと15分ぐらいあるね。葵君、追加でコーヒーゼリーちょうだい。ホイップ無しで。」
「ホイップ無し?そんなの美味しくないよ。」
「甘いのあんまり好きじゃないの。でも彗さんのゼリーが食べたいんだからいいじゃん。ほら、早くオーダー通してよ。あっ、彗さーん。今日は早く帰ってきてね。」
キッチンから顔を出した彗さんに、島田が嬉しそうに手を振った。
顔を赤らめて照れてる島田を横目にコーヒーゼリーを準備した。
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