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夢の外へ7
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(葵語り)
約束の時間きっかりに雅さんが現れた。
白いTシャツに長袖のカーディガンを羽織り、細身の黒いパンツを履いている。小柄で細身だけど身体つきは男の人なので、とても目立った。そこに眩しい光があるように、一斉に店中の視線を集めている。本当に空いている時間で良かった。雅さんって有名人だから、騒ぎになると色々困るだろう。本当に島田の突拍子もない思い付きには困ったもんだと奴を見たが、雅さんを目の前に目がハートになっていた。
雅さんは、俺と島田をすぐ見つけて、駆け寄ってきた。花弁の香りが辺りに漂い、お花畑にいるような錯覚を覚える。
そして、ふわりと微笑んだ。その場にいる人みんなが彼に恋している様な気分になる。包んでる空気がそうさせているのではないかと酔った頭で考えた。
「マリちゃん、こんにちは。葵君は少し前に会ったね。」
「雅さん……東雲と兄弟なんだって?聞いた時、心臓がぶっ飛ぶかと思ったよ。見た目が全然違うから、想像もつかなかった。あの男臭い奴と雅さんは同じ血が流れてるなんて、信じたくない。」
頭をいやいやと振りながら島田が訴えた。それは事実なんだから受け入れようよ。
「おい、島田。言い過ぎだって。」
「いいよ、別に。龍弥とは俺よりも長い付き合いでしょ。友達が少ないから、これからも仲良くしてあげて。それより、雅ちゃんはどこにいるの?」
雅さんの弟は高校からの同級生だ。島田には恋人云々の下りは伝えていない。知ったら東雲に対して態度が明からさまに悪くなるだろう。兄弟という事実だけで受け止めるのが精一杯のように思えた。言わぬが花、知らぬが仏という言葉ぐらい俺だって知っている。
雅さんにはどんな秘密があるのか、俺には分からないが、その秘密からオリエンタルな魅力を引き出しているのは確かなようだ。
間も無く、女性スタッフに抱かれた雅ちゃんが戻ってきた。ミルクを飲んだばかりで、機嫌がいいのは見ても明らかだった。
「始めまして。雅ちゃん……うわー可愛い。抱っこしてもいい?おいで。可愛い、可愛い。可愛いー。」
不思議そうな顔した雅ちゃんが抱き上げられると、きゃっきゃっと笑う。
みんなが雅ちゃんを抱っこしている雅さんに見惚れていた。綺麗な人が、可愛いものを抱っこして悶えている姿がこうも絵になるとは思わなかった。周りの空気が違って見える。
そこを島田がすかさず携帯で写真を撮った。
「雅さん、大丈夫。SNSには投稿しないから、みーたんのママに送るだけです。」
「全然そういうの気にしないから、ちゃんと撮ってね。不意打ちはダメだよ。」
何度も写真を撮る島田に、雅さんがダメ出しをしていた。雅ちゃんはその間、大人しく2人のやりとりを観察している。
そう言えば俺はバイト中だった。島田の食べた食器を持ってキッチンに下がろうとした時、雅さんに呼び止められる。
「葵君もお話ししようよ。ダメなのかな?仕事中かぁ。残念……」
う……んと、少し困ってキッチンに視線を送ると、彗さんがジェスチャーでOKのサインをした。たぶん混んできたらアウトだろう。
今のところは空いている。
「雅さん、あそこにいるメガネで背の高い人が僕の彼氏なの。かっこいいでしょ。めちゃいい男なんだ。ここのスタッフには内緒だからね。」
「ふぅん……確かにいい男かも。優しそうだね。マリちゃん、なかなかやるじゃん。でも俺の好みじゃないかな。」
「えぇーー、これって喜んでいいの?悲しんだらいいの?微妙なんだけど。」
談話に参加していいよと、彗さんの許可が下りたとしても、食器は下げたい。2人の会話を背にキッチンへ行くと彗さんが近づいてきて俺に呟いた。
「あのさ、真理の交友関係に口出しはしたくないんだけど、雅さんて……どんな人?ただの友達なのかな。仲が良さそうだし、姪っ子に同じ名前付けてるし……真理が尋常じゃない位懐いてる。」
「ああ、はい。昔、彗さんと付き合う前に、ちょっとした知り合いだったみたいですよ。しかも、同級生のお兄さんなんです。」
「そうなんだ。葵君も交えた友人ならいいけど、なんだか心配でね。真理は、何にでも好奇心の赴くままに動くから、不安になる時があるんだ。」
彗さんは彗さんでヤキモキしていたらしい。
こちらにも真実を告げることはできない。雅さんと島田が一夜限りの仲だったとは、口が裂けても彗さんには伝えられないと思った。
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