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夢の外へ9
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(葵語り)
ろうほう……とは、明るい知らせのことを言うらしい。嫌なことが目の前に立ちはだかっていて、駄々をこねている俺にどんな良い知らせなんだろうか。それとも慰めかな。
「俺の遠ーい知り合いの知り合いに、男の子を撮りたいっていう人がいてね……」
「雅さん、それってヌード?葵君が裸になって縛られて、攻められるやつを撮っちゃうとか。すっごく見たい。見たい見たい見たい。」
話の途中で興奮した島田に口を挟まれた。ムカついたので頭を小突く。さっきの余裕な感じも鼻についたから、その分拳に力が入った。
「いだっ……ひどぉ……」
「煩い。島田は黙れ。」
「あは。別にそっち系でもよければ喜んで紹介するけど、葵君は違うでしょ。その辺を歩いている男の子を被写体にしているカメラマンがいて、普通の子を探してるんだって。『普通』な人が俺の周りに1人もいなくて、話半分で流してたけど、葵君がいた、と思い出したわけ。」
「僕だって普通だよ。僕もモデルやりたいよぅ。」
いちいち口を出す島田に辟易して、終いには無視して雅さんの話を聞き入っていた。
「今までやったことのない業種に触れてみたら?葵君、八方塞がりでしょ。何も会社に入るだけが進路じゃないからね。1回やってみて嫌なら断わればいい。俺を通してやってもらえば問題ないよ。」
信じられない提案に一瞬頭が真っ白になったが、徐々に暖かな色に染まり始めた。俺が被写体になるのか。普通な男の子を撮りたい人って、どんな人だろう。
「あの……モデルって大変ですか?」
「大変じゃない仕事はないから、見方によっては辛いこともあるかもしれない。そこで諦めるんじゃなくて、やってみようって一歩留まってみようよ。何かを得られるはずだから。俺だって縛られたり、吊るされたり、身体的に辛いことは時々あるけど、全然平気だもん。ね、葵君、やってみたら?これは少し多く生きてるお兄さんからの助言。悪くない話だと思うけどなぁ。折角綺麗に生まれてきたんだから、活かさないと勿体無いよ。」
「は、はあ…………」
これがプロというものか。雅さんは笑いながら軽く話してくれたので、構えることなく内容がスッと入ってきた。光が見えた気がする。思いつきもしなかった仕事だ。確かに、スーツを着て会社勤めすることへの拒否感よりは、感じる嫌悪が少ない。
「…………で、葵君、やってみるの?1枚づつ脱いで行こうかって言われたらどうする?ふふふ、結局裸にされたりして。僕、付き添っていいかな。」
「えっ、モデルってそんな仕事なのか。」
島田がにやにや笑っていて、また揶揄われたことに気付く。むかつく奴だ。
「そんな人じゃないし、やらせないよ。確か……外の撮影が殆どじゃなかったかな。でもマリちゃんの妄想は個人的に気になるね。なんなら俺も絡みたいくらい。」
「僕も、僕も、一緒にやりたい。雅さんと写真を撮りたい。あれ、この場合は写りたい?撮りたい?……まぁどっちでもいいや。」
乗り出した島田により、テーブルが激しく揺れた。空になったグラスが倒れそうになる。
「そっちも島田も固く遠慮しておきます。」
痛いのは嫌だからと付け加えたら、痛くないのもあると2人に迫られたので、本気で焦った。この2人にゴリ押しされると逃げられない。なんか怖いよ。
こうして、雅さんに紹介されたモデルを気晴らしにやってみることにした。
先生に説明したら、余りいい顔をしなかったけども、何も言わなかった。今回も見守ってくれるらしい。いつもありがとう、と心を込めてお礼を伝えた。
雅さんが間に入り、カメラマンとの最初に会う日が決まった。初夏の風が吹く、爽やかな晴れの朝だった。
「葵、いってらっしゃい。終わったら連絡しろよな。迎えに行くよ。」
「うん。分かった。なんかドキドキする。大丈夫かな。」
「葵なら大丈夫。リラックスするんだよ。自然体でいればいいから。」
ちゅ、と優しいキスを貰って、先生の家を出る。さっき抱きしめて貰った残り香がふわりと漂い、風に乗って消えた。
眩しい日差しを全身に受けて、なんだかいい1日になりそうな予感がした。
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