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夢の外へ18
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(葵語り)
残念ながら限定品は予約の人の元へ行ったけど、新井さんが個人的に取り置きしていた底の丸いタンブラーを特別に分けてもらった。嬉しかったので、家のダイニングテーブルに並べて写真を撮る。透明なガラスが夕日を通すと眩しいくらい金色に輝いて見えた。
これをアイコンにしようと、携帯を弄っていた時だった。
「よかったな。葵は食器や小物が好きだろう。普段見ていて、大切に扱うなとは思ってたんだけど、まさか向こうから誘われるとはな。葵の趣味で揃えた物や、いつの間にか増えている植物を見て、こういう仕事に就けばいいのに……とは感じてた。」
お風呂上がりの先生が声をかけて来た。先生は、休日で出かける用事がない日は、夕方にお風呂へ入ってしまう。シャンプーのいい匂いが辺りに立ちこめていた。パンツ一丁で歩き回る癖も見慣れた。実家でそんなことするのは姉ちゃんしか居ないので、目のやり場に慌てたのが今では懐かしい。
普段の俺に気付いてくれてたんだ。
「これから履歴書を用意しないといけないね。就職用のやつならすぐ用意ができるけど、これは出したくない。」
就活用の無駄な文が羅列してある履歴書を隅に追いやると、勢いよくテーブルの角へ行き、床へ滑り落ちた。それを先生が拾ってまじまじと見つめる。書くことが無さ過ぎて、ネットから引用したつまらない内容だ。作られた俺を演じるための説明書きがしてある。
「やっ、見ないでよ。」
「なになに……長所は、どんな時も前向きなところで、短所は頑固すぎるところですか。葵はそんな人なのか。俺にはもっと違うように見えるけど。」
「別にいい。無理やりひねり出したやつだから、こんなの俺じゃないと思うし……」
「だからさ、型にはまらなくていいよ。葵は葵だよ。ワガママで、甘えたで、常に構ってあげたくなる俺の大事な恋人だ。社会人としてこうあって欲しいというステレオタイプに嵌めるのは止めた。お前をとことん甘やかすって決めたんだ。」
「なんなの、急にそんなこと言って。いつも教師ぶってたじゃん。どうしても俺を会社員にしたかったくせに。」
先生の気持ちも分かる。真っ当な大人になって欲しいのだろう。先生は俺のことを時々年下の男の子にしか見ていない時があり、初めは嫌だった。だけど、最近は事が上手く運ぶので従うようにしていたが、少し認めてくれたのかな。
「あーうん。なんだろうな。葵を親御さんから預かってる気持ちが強かったんだが、それは違うことにようやく気付いたんだろうな、俺が。」
「今更?いい加減、俺を子ども扱いするのをやめてよ。」
「ごめん。可愛いから、ついつい何でも口出しちゃうんだよ。愛情の裏返しってことで赦してほしい。それで、近々葵の家へ挨拶に行こうかと思うんだ。そろそろ同棲の許可を貰いたい。お前1人じゃ説得は無理だろ。」
先生が真面目な顔をして俺を見る。パンツ一丁なので真剣さは半減しているが、ピリピリとした空気は伝わって来た。
「それって本気……なんだよね。」
「本気だよ。問題はお母さんだろ?長期戦になるのは覚悟してる。当たって砕けよう。」
俺の進路については、きちんと両親に説明をしなくてはいけない。その上、先生と恋人だと聞いたら、きっと母さんは取り乱して、話すらしてもらえないかもしれない。今の俺をどう理解しているのか、聞くのも躊躇っている状況だ。双方にいい方法はないかと考えあぐねていたら、おでこに何かが触れる。それが柔らかい先生の唇だと気付くには容易だった。
「また難しい顔して1人で考えてる。2人の未来なんだから、俺も混ぜてよ。」
「うん……ありがとう。でも、考えるのは後にする……」
向かい合わせになり、先生の裸をぎゅっと抱きしめた。形のいいお尻を揉むと笑みがこぼれる。へへへ、俺のもの。先生は俺のものだ。大好き。
「葵って最近エロくなったよな。元々やらしいけど、俺の裸を触りながらにやけてるだろ。男なんだなと思うことが多くなった。」
「俺は男だよ。先生で欲情もするし、抱きたい……とは思わないけど、エロいこともしたいもん。」
それはありがとう、と先生は言って、今度は唇にキスをくれた。
なんとなくだけど、俺の進むべき道が見つかった。決して急ぐわけでもなく、かといってスマートでもない俺の道は、不器用ながらも少しづつ、ゆるりと続いていくのであった。
【夢の外へ終わり】
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