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海へ出た初夏の旅3
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(葵語り)
「葵君、いらっしゃい〜、来てくれて嬉しいわ。お花のお礼もしたかったの。」
春子さんがそこにいるだけで、パッと花が咲いたように明るくなる。彼女はキッチンで一生懸命何かを作っており、大量の揚げ物らしき準備が気になった。何かパーティーでもするのだろうか。
「約束通り葵を連れてきたからな。しつこくすんなよ。俺はちょっと休むわ。あれ、オヤジは?」
「…………祐樹。今日がなんの日か知ってて来たんじゃなかったの?」
「えっ今日………って、あっ、あああっ……忘れてた。」
考え込んだ先生が『オヤジの誕生日だ』と思い出したように付け加えた。
「お父さんの?すごいタイミングだったんだ。」
「知らずに来たんだ。息子なら忘れててもしょうがないのかしら。貴明さんは、ちょっとそこまで刺身盛りを取りに行ってもらってるの。今夜はパーティーだから、葵君も参加してね。なんなら泊っていってもいいわよ。もちろん、お祭りは行くのよね。」
今、お祭りって言った?
春子さんの『お祭り』という単語に俺のテンションは上がった。頭の中が、焼きそばや綿菓子、クレープに占領されて涎が出そうになる。
「そうだよな。毎年父さんの誕生日は祭りだった。神社の方を通らなかったから、すっかり忘れてたよ。葵はどうする?って聞くまでも無いな……祭り、行くよな……行こっか。」
「うんっ、うん。行く、行く!!!行くぅ!!」
俺の我儘を聞いて、海を見るために実家へ車を走らせた挙句、休む時間もなく祭りへ繰り出すことになった先生の疲労が濃くなったように見えたが、興奮した俺は深く考えなかった。
「まあ、はしゃいじゃって相変わらず葵君は可愛いわね。折角だから浴衣を着ましょうか。祐樹のやつがあるのよ。」
「いいんですか?」
「高校生の時にね、彼女とお祭りに行く為に着たいって言って、近所の呉服屋さんで作ってもらったの。結局、2回ぐらいしか着なくて、箪笥の肥やしになってたから、浴衣も喜ぶでしょう。ちょっと出してくるわね。」
そう言って春子さんは2階へ行った。
彼女とデート……先生の実家に来ると、昔の女の影がちらつく。俺の高校時代は、ほぼ先生一色だったから、先生が他の誰かと恋愛したことを聞くと、ものすごく寂しくなるのだ。俺の知らない高校生の先生には何をしても会うことは叶わない。そして嫉妬心からか全く面白くなかった。
「そんな顔すんなよ。15年くらい前のことだぞ。」
くしゃ、と髪を撫でられて、俺は下唇を噛む。
「浴衣を着てデートした彼女とはどうなったの。」
「えぇっ……どうだったかな。もう覚えてない。アレだよ。若気の至りってやつで、張り切りすぎて振られた気がするな。」
「張り切りすぎって、何に?童貞捨てようとか、一夏の経験とか?そういうやつ?」
「お前、踏み込んで来るな……浴衣を作ったのは高校1年生だから、その頃の彼女とはそういうのは無かった。」
「先生の初体験っていつなの。」
「………………中3かな。」
ちゅ、中3…………中学生にショックを隠しきれなかった。中学生ってまだまだ子供だけど、身体は大人なのか。
「相手は誰?誰に捧げたの。」
「…………何泣きそうになってんだよ。昔の話。童貞は捨てるものであって捧げるような価値はないよ。相手……んー、この間、母さんが入院してる時に会った医者がいただろ。軽そうなやつ。そいつの姉ちゃん。」
確か隣に住んで雅人さんという名前だった。病院で何度か会ったことがある、先生のことが好きだった人だ。
「一応言っとくが、寝てるところを勝手に部屋へ入ってきて襲われたんだからな。そこに俺の意思は存在しなかった。そんなことで怒んなよ。ほら、こっちおいで。」
「でもちゃんと記憶はあるんでしょ。拒めた筈じゃん。スケベ。エロオヤジ。不潔だよ。もう触らないで。」
自分が言っていることが著しく矛盾しているのは分かっていたけど、俺の知らない先生がそこには居て、悔しくて涙が出そうだった。
伸ばされた手を思いっきり叩くと、何故だか半笑いされて、無性に腹が立ったのだった。
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