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海へ出た初夏の旅12
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(雅人語り)
悪戯心が騒いだのだ。
祐ちゃんに愛されるために生まれてきたようなこの子を悲しませたら、どうなるか見てみたい気もした。
くだらないことで喧嘩して、酔っ払った葵君を置いて祐ちゃんは帰ってしまい、残された葵君と暫く話をしていた。緊張しながら話している少し高めの声が可愛らしい。
この子は、俺の知ってる大学生達とは全く違う。素直で感情表現が豊かだ。何かにつけて世の中を斜めに見ようとする世代かと思いきや、こういう青年もいるのだと感心した。その分世渡りは下手そうだ。常に心配が付いて回る祐ちゃんの心中を察する。綺麗に片付いた店内はとても静かだ。俊さんは奥の自室へ引っ込んでいる。今頃は夢の中だろう。
「雅人さんは寝ないんですか?ふぁぁぁぁ……」
隣に座っている葵君が眠そうに目をこすり、欠伸をした。もう少し仕事をしたかったが、彼を揶揄ってみようと思い立つ。庇護欲をそそられる男の子に惹かれたのは、初めてかもしれない、不思議な魅力が彼にはあった。
ふざけてキスした時とは、俺の気持ちも場の雰囲気も全く違っている。
「んー、眠いよ。だけど、布団はあそこのひと組しかない。さっき君が寝ていたところ。」
襖が少し空いている方を指差すと、葵君があっと小さく呟き赤面した。実は奥の押入れに布団は2組入っている。眠くなったらそれで寝ろと俊さんから言われていた。だが、葵君は俺の言うことをあっさり信じた。
「すみません。元々は雅人さんが使うやつですよね。俺はここでうとうとしてるんで、雅人さん寝てください。」
「でもそれじゃあ葵君が風邪ひくよ。」
葵君が同時にくしゅんとクシャミを連発したので、お互い笑顔になる。
「祐ちゃんとはどうやって寝てるの?ほとんど同棲みたいなんでしょ。」
「ベッドが一つしかないんで、一緒に寝てます。窮屈だけど、なんとかなりますよ。」
大学生と教員なら、生活リズムは全然違うだろう。きっと葵君が合わせてるのだろうと、妻みたいな姿を想像した。祐ちゃん……羨ましい。すぐ返すから今夜だけ貸してね、と近くの実家で悶々としてるであろう祐ちゃんへ念を送っておいた。
俺が癒されたら、患者さん達に還元される訳で、結果的に人助けになったりする。世の中の役に立つのだ。たぶん……
「それなら一緒に寝ようよ。」
「えっ、それは……ちょっと……」
「嫌か……嫌われちゃったかぁ。ただ寝るだけだよ。男の雑魚寝に神経尖がらせなくてもいいじゃないか。過剰反応しすぎだよ。野郎だって。」
俺が嫌味っぽく言うと、葵君は暫く考えた後『いいですよ』と控えめに返事をくれた。そして俺の目をじぃと覗き込むように見てくる。
「さっき飲んでた時、雅人さんの目が怖かったんです。もう、男の雑魚寝だから気にしません。変なことしないでくださいよ。」
「変なことって。」
「キ、キスとか…………」
「何考えてんの。そんなの葵の考えすぎだよ。何にもしないってば。さっきは酒が入ってたけど、今は素面だから大丈夫。」
目がギラギラしていたのは事実で、今はもっと獲物を狙う狼のようなのだが、葵君は気付いていない。職業柄、思ったことが顔にすぐ出ないようにしておいてよかった。いや、この子がちょろいのか。
なんとしてもこの羊を嬲りたいなと思っていたら、羊の頭が舟を漕ぎ始めていた。眠いらしい。
「ほら、眠いなら先に布団に入ってていいよ。片付けしたら俺も行くから。もうこんな時間じゃないか。」
「ふぁい……もう寝ます。」
眠そうな彼を促して俺は片付けをする。これからやろうとすることで頭がいっぱいになり、こちらはなかなか眠れそうにない。逆に目が冴えていた。
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