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海へ出た初夏の旅15
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(葵語り)
襖から顔を出すと、思った通り先生がいた。気まずくて視線を逸らしてしまう。歓喜で踊り出したいくらいなのに、生意気なことを言ったのできまりが悪い。けど、心には花が咲いていた。お迎えが来たよ。雅人さんの大嘘吐き。
「先生……どうしたの。」
「ん……雅人と2人にするのは心配だから、連れて帰ろうかと。寝てると思ったけど起きてたんだ。お前、なんかされてないよな。雅人はどこにいる。」
「こっちにいるけど………」
先生がすたすたと店内を横切り、何の躊躇いもなく和室を解放した。8畳間には乱れた布団1組の上に、不意打ちの訪問で慌てている雅人さんがいた。
先生が掛け布団を勢いよく剥ぐと、連なった使用前のコンドームが飛び散った。雅人さんの用意周到さに開いた口が塞がらない。最初からそのつもりで布団へ誘ったのか……俺が鈍感なだけなのか……危なかった。
「やっぱな。俺と葵が喧嘩した時、早く家へ帰るように促すから、おかしいと思ったんだ。そしたら『葵君が心配だけど俺は寝るからな。後は祐樹がどうにかしろ』ってメッセージが俊さんから来て、雅人の態度に合点がいった。」
いつの間にか正座になっていた雅人さんは、先生に睨まれてヒュッと喉を鳴らした。
「で、葵に何したの。」
「何にも。未遂だよ。何にもしてない。」
「布団は1つ。コンドームは未開封だけど、忍ばせ済みで、雅人はパンツとTシャツで半勃ち。後はハメるだけみたいな状況で何言ってんだよ。本当のことを教えろ。日本語聞こえてんの?」
低い声の先生が正座している雅人さんの太ももを足で蹴り、更に体重を掛けて踏んだ。みるみるうちにパンツ越しにある雅人さんの息子が萎んでいく。歯切れの悪い返事をしていた雅人さんは、懇願するように口を開いた。
「い、いたたたた、ごめんなさい。お尻と股間をちょっと触りました。それだけです。あっ、酒飲んでる時にキスもしました。後は何にもしてません。させてもらってないから。祐ちゃん、本当だってば。自分は途中で帰ったくせに怒るなんてアンフェアだろ。」
一呼吸置いて先生が俺の方を見た。
「葵、こいつの言ってることは本当か?」
「…………あぁ、うん、そう……だよ……ごめんなさい……」
多分、俺もガードが甘いと怒られるに違いない。分かってるけど、明からさまに悪い人じゃないと見分けがつかないのだ。雅人さんは特に先生の幼馴染だし、お母さんの春子さんも頼りにしている。そんな人を疑ってかかることは出来ない。いいお医者さんだろうし。
「いいよ。葵は悪くない。悪いのは俺だ。すまなかった。」
大きな手で、ふわりと頭を撫でられた。
「元はと言えば、祐ちゃんがお見合いをしたからでしょうが。結婚して葵君を捨てるつもりなら、俺は本気でこの子が欲しい。後で言おうと思ったけど、泣かせるようなら俺が貰う。」
雅人さんの言葉に、先生が鼻で笑う。
「寝言は寝てから言え。葵は誰にも渡さない。人のものに手を出しておいてずうずうしいんだよ。だいいち、葵を欲しいやつは他にもいるから、お前には回って来ねえよ。」
「余裕なところが腹立つなぁ……葵君、いつでも待ってる。俺は君に惚れたんだ。できるならまた一緒にお酒を飲もう。」
「そんな機会はもう絶対にない。下心丸出しのスケベな視線で、次に同じことをやったら分かってるだろうな。葵に触れていいのは俺だけなの。スケベなことやっていいのは、『先生』だけだから。」
「…………鼻に付く態度がムカつく……」
「えっ、なんか言ったか?」
「…………………別に…………諦めないから。」
雅人さんの胸ぐらを掴んだのち、お互い睨み合ってから話は終了した。
浴衣を抱えて、先生の後に続いて店を出る。後ろを振り向くと、雅人さんが小さく手を振っていたので、軽く会釈をした。
近所のお兄さんみたいな、気さくで優しい人だったな。ちょっと強引だったけど……やっぱり悪い人ではない。セックスとか、そういうの抜きで仲良くしたい人だと思った。
友達になれたらいいのに……残念だった。
白々と明けていく空の下、手を繋いで田舎道を歩いた。静まり返った住宅街が、祭りの後を寂しく物語っている。結局お祭りも楽しめなかった。
「今後雅人には気を付けろよ。自分にはその気が無くても相手にはあるんだ。特に年上と2人っきりでご飯とか酒に誘われたら要注意だぞ。今回は俺が悪かった。ごめんな。俺には葵しかいないんだ。お前に見放されたら生きていけなくなる。」
やっと先生から欲しい言葉を貰えた。足の先まで幸せな気持ちに包まれて、心が暖かくなる。
「…………うん。先生、もうしないでね。俺も先生だけ。でも……雅人さんはいい人だよ。面白いし。なんであんなことになっちゃったのかな。」
先生が俺のつむじに軽くキスをした。
「お前がもう少し大人になったらきっと分かるよ。葵に似た奴が現れない限り分からないだろうから。何かと惹きつけられるんだよ。隙を見せられて、イケるかと思っちゃうんだよなー、男ってバカなんだ。」
「そんなもんなの………?」
「ああ。そんなもんだ。」
「ふーん………」
よく分からないけど、そのまま流した。
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