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嫉妬と羨望7
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(熊谷先生語り)
「先生は、いい年なのに、なんで結婚しないの?俺もね、カノジョはいないんだ。」
いつの間にかバイトの話は終わっていて、神田は俺について聞いてきた。生徒にプライベートな話をすることは、禁じられている手前あまり話せない。
特定の生徒と必要以上に仲良くしてはいけないのだ。改めて葵は特別だったと思う。
それに、俺の〝カノジョ〟は実家に帰ってしまっていて、口をついて出るのは〝カノジョ〟に関する懺悔ばかりになってしまう。だから、聞いている方は絶対に面白くないと思う。
「さあ、何でだろうな。俺はモテないから、よく分からん。教師は結構激務だから彼女がいても愛想を尽かすんじゃないか。神田はまだ若いから、恋は沢山するといいぞ。ゆっくり相手を見つけるといい。」
当たり障りない返答をしたつもりだった。
だが、そんな俺の思いを遥かに上回り、神田は面倒くさいことを言い出したのだ。
「先生、モテないとか嘘でしょ。じゃあさ、俺と付き合ってよ。俺、熊谷先生が好きなんだ。仕事が忙しくても我慢する。どんなに束縛されても、構ってくれなくてもどっちでも平気。合わせるよ。どう?尽くすから付き合わない?」
奴の手が俺の手の平をスルリと触り始める。
神田の手はひんやりと冷たかった。
「はあ?断る。急に大人びたことを言いやがって。お前には10年早い。」
「えー、だめなの?生徒だから?それとも男だから?」
「そのどっちもだ。生徒に興味はないし、見つかったら俺のクビが飛ぶ。手をどけろって。」
正確には葵以外には興味がない、だ。
触っていた手を引っ込めた神田は、葵によく似ているクリッとした目で俺のことをじーっと見てきた。
この瞳は反則だ。いたたまれなくなり、思わず目を逸らした。
「俺はいつでもウェルカムだから、先生がその気になったら言ってよ。寂しくなったら利用してくれればいいから、ね?」
「自分の価値を下げることは言うな。もっと自分を大切にしろよ。とにかくお前には興味ないから。この話は終わりだ。」
「ちぇっ、つまんないの。好きなのに。」
自分を大切にしろ……か。
確か昔に言ったことがあったよな。
甘酸っぱい思い出が胸を過り、やはり近々葵を迎えに行こうと心に決めた。
俺が悪かったと平謝りしよう。
もう葵さえ戻ってきてくれれば何もいらない。
今考えれば、葵に出会った当初は教師をクビになるとか、男だとか全く気にならなかった。それだけ夢中で追いかけていたのだと思う。
予鈴が鳴ったので帰るよう促すと、神田は渋々教室へ戻っていった。
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