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そうだ京都へ行こう5
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(葵語り)
無事に京都へ着いた。
着いたら連絡を入れろと言われたので、先生にメッセージを送る。
京都駅では松山さんが真っ先にレンタカーを借りていた。確か予定ではバスかタクシーで移動となっていた気がしたのに、変更したようだ。
最初は老舗の京佃煮屋さんの予定だった。
だが俺の行きたいところへ行こう、と突然松山さんが言い出したのだ。
行きたいところなんて山程ある。中学の修学旅行の際に回った所だって、もう一度訪れたいと思っているし、美味しい食べ物屋さんにも同じく行きたい。
清水寺や銀閣寺に想いを馳せる。
しかし、今日の目的は観光ではない筈だ。
「決まった?」
悩んでいる俺に運転しながら松山さんが聞いた。素直に答えていいものか複雑な気分になる。
「じゃあさ、トロッコ列車に乗って川下りしようか。嵐山に行こうよ。」
渡月橋とかよくテレビで見るやつだ。乗ってみたいとは思っていた。
「いいんですか?視察はやらなくても。仕事が大事なんじゃ……」
「折角葵君と京都に来たんだ。仕事なんてどうでもよくなってきた。観光しようよ。いつも仕事だけで何もせずに帰るから、偶にはこんなことやってもバチは当たらない。」
急に予定が180度変更になったことに少し不安を覚えつつも、初めて行く場所に心が躍った。先生に沢山写真を撮って送ろう。
取り敢えず車窓から見える街並みを送信する。
「分かりました。松山さんがそう言うなら行きましょう。」
俺は持っていたガイドブックを広げて、嵐山付近で気になるお店を探した。
嵯峨野嵐山駅は休日で混んでおり、沢山の人たちで賑わっている。朝イチで出発したので、少し待てば当日の座席を確保することができた。
トロッコ電車が出発すると、目の前には渓谷を見下ろす絶景が広がっている。
9月の京都は少し残暑を残しつつも、気持ちのいい風が吹いている。
風の香りがもうすぐ秋が訪れることを告げていた。俺たちは、窓を開けて目に入る緑色の風景を楽しんだ。
そして、終着駅から保津川を船に乗って下ると、お昼を過ぎていた。船が揺れて少し酔ってしまい、松山さんに肩を抱えられて歩く。
「お腹すいたね。落ち着いて何か食べればきっと気分も良くなるよ。大丈夫かな。熱は無いよね。」
おデコに手を当てて、松山さんが熱を見る。
「それ、俺も言おうと思いました。酔っただけだから平気です。」
2人とも同じことを考えていて、顔を見合わせて笑う。松山さんはずっと背中を摩ってくれていた。
実は少し前から色々と物足りない気持ちだった。松山さんは凄く良くしてくれる。俺に気を使ってくれるのも判る。話を聞いていても面白いし、居心地は悪くない。
だけど、それだけだ。それ以上もそれ以下もない。他の感情は全く生まれない。
心の中で先生と行きたかったと思う自分がいた。きっと隣に先生がいたら何倍も楽しかった。一緒に景色を共有したい。
我儘を言って先生に連れてきて貰えばよかったと盛大に後悔していた。
考えれば考えるほど1分1秒でも早く会いたくて仕方が無い自分が歯痒くて辛い。
取り敢えず、歩きながらご飯屋さんを探すことにした。
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