アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
熊谷家の人々6
-
(葵語り)
途中、花屋さんに寄って籠盛りの花を購入する。会ったことはないけど、先生のお母さんのイメージは黄色寄りのオレンジだ。きっと暖かくて優しい人だろうから、それに合ったものを選んだ。
行きたいと言い出した俺より、先生が緊張しているみたいだった。途中の車内で段々と口数が減っていき、終いにはしゃべらなくなった。黙々と煙草を吸っている。いつも格好いい先生が今日はなんだか可愛い。思わず笑いたくなったけど、必死で堪えた。
間も無く車は病院の駐車場に着いた。
余りに無言な恋人が心配になったので、降りる前に服の裾を掴んで引き寄せた。それに気付いた先生が俺を両腕でぎゅっと包み込む。俺たちは、不安になるといつもこうやって心を落ち着かせる。傍にいるよ、だから安心して、と互いに念を送るのだ。
「誰か見てるかもしれない。知ってる人に見られたら大変だよ。もう止めよう。先生、離して。」
しばらく抱き合っていた。俺が離れようと身体を動かしても、力が強くてビクともしない。
「構わない。こうやってると葵は一見女子みたいだし、誰か分かんないよ。あー嫌だな。親父に会うのが憂鬱。葵がとかじゃなくて、俺は親父とそりが合わないの。会えば喧嘩ばっかだし。今日は葵がいるから、絶対にイライラしないって気合い入れても、たぶん無理だ。」
女子って………全く嬉しくない。
先生がお父さんと仲が良くないのはなんとなく知っていた。お互い頑固で譲ることをしないのだろう。駄々っ子みたいだ。
世の中の親は皆んな俺の両親みたいじゃないことは知っている。島田にも散々詰られた。容認している俺の家が特殊なんだ。
家族に反対されても、自分の選んだ人と共に生きる選択をすることは、とても勇気のいる決断で苦しさも伴う。大切な人にそんな思いはさせたくない。
だから、先生の両親に認めて貰えるように、少しづつ努力するしかないんだ。
まずは会うことから始めて、俺ができることを精一杯やろうと思う。
突然、コツコツと車の窓が叩かれた。振り向くと、外には呆れ顔の和樹さんが立っている。
和樹さんは、先生の弟で大学院生だ。俺と同じcaféRでバイトをしている。俺は昼で、和樹さんは夜のカフェバーが中心だから、頻繁に会うことはない。俺が高校生の頃は色々嫌味も言われたけれど、最近では何も言わなくなった。
和樹さんは自分では認めてないけど、兄である先生のことが大好きだと思う。
同じ人を好き同士、分かってしまうのだ。勿論、兄弟としてだけども。
「売店に行ったら、兄貴の車を見かけたんだ。なかなか降りて来ないから、心配したのにこれかよ。いちゃいちゃすんじゃねーよ、バカ兄貴。知り合いに見られたら、認めるどころか父さんがブチ切れるぞ。ま、父さんは遅い昼ごはんを食べに行ってるからいないけど。」
病院内は休日の午後だけあって閑散としている。外来も終了しており、見舞客と患者さんがちらほら確認できるくらいだ。
歩きながら熊谷兄弟は会話を続ける。2人とも歩くのが早いのでついて行くのに必死だ。熊谷兄弟はかっこよくて絵になるから、遠巻きでしばらく見ていたいと密かに思った。
「いいじゃん。俺が何しようが勝手だと言いたいけど、親父は……面倒くさいし、会いたくない……ところで、母さんはどう?」
「さっき一般病棟に移った。思ったより元気だよ。昨日事故に遭った人じゃないみたい。葵君、母さんが病室で待ってるよ。君が行くことは伝えてある。少ししたら俺と兄貴は主治医から話を聞きに行くから、母さんを見ていてくれないかな。」
「えええっ、はい………」
和樹さんからの突然のお願いに緊張が走る。そんな俺を見た先生が、にこにこしながらさり気なく俺の手を繋いだ。ぶらぶらと手を揺らす。
「大丈夫。まずは俺から紹介する。葵は心配することないから、リラックスして。」
「………そんなこと言われても緊張する。」
エレベーターが開き、お母さんが入院している整形外科病棟へ着いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
76 / 161