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熊谷家の人々8
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(葵語り)
「本当はね、11も年の離れた若い子に誑(たぶら)かされてるんじゃないかって思っていたの。裕樹は昔から彼女ができても長続きしないし、あんまり恋愛とかに興味がなさそうで、女の子が寄ってくるからしょうがなく付き合ってる感じだった。
彼女を紹介してもらうのも、高校生以来無かったから。
相手が若い男の子って聞いて、ちょっと意地悪なことを言ってやろうって、さっきまでは思ってた。だけど、実際に葵君に会ったらそんなの吹き飛んじゃった。」
イタズラっ子みたいな表情で春子さんは笑った。午後の日差しに照らされて、笑顔が輝いて見える。鼻をすすりながら俺は話を聞いていた。
「まだ20歳なのに、『子供が産めません。』って泣きそうな顔して言われたら、意地悪な気分なんか無くなっちゃった。もっと楽しいことばかり考えていいのよ。ハタチなんて自分のことだけでいいのに。葵君は優しい子ね。ご両親が大切に育ててきたのが伝わってくる。もう泣かないで。裕樹に怒られちゃうから。ああ、本当に可愛いわね。」
「……ふぁぃ……グズっ……すみません。」
ずっと心の中にあった、先生に対する罪悪感が春子さんによって溶かされていく。
先生からは、性別とかは関係ない、葵だから好きなんだよって、しつこいぐらい聞かされていた。何回聞いても心のモヤモヤは晴れることは無かった。
口にすると怒られるけど、女の人と結婚した方が幸せになるんじゃないかと心の底で思っている自分がいた。
だけど、春子さんが認めてくれた。
俺は先生と、ずっとずっと一緒にいてもいいんだ。
「葵君は、裕樹のどんなところが好き?」
「ええと……頼りになるところと、優しいところです。いつも俺を1番に考えてくれます。」
「あの裕樹がね……聞いていて耳を疑うわ。本当に裕樹こそ、葵君に出会えて良かった。葵君も嫌になったら捨てていいわよ。その時はあの子に構わず新しい人の元へ行ってね。」
「……そ、そんなことないですから。嫌になるなんて……絶対に無いです。」
「ふふふ、冗談よ。ふふふ。葵君の反応が面白くてついつい言いすぎちゃう。裕樹を末永くお願いします。」
お母さんの前では答えにくい。恥ずかしくて赤面した。本当は好きな所はもっと沢山ある。
何も言わなくても大概のことは気付いていること。心配性なところ。実は甘えん坊なところ。数え挙げたらキリが無い。先生が隣にいてくれるから、俺が生きている意味がある。
俺は先生が大好きだ。
世界で1番、誰よりも愛してる。
「ねえ、また来週にお見舞いに来てくれないかしら?裕樹のことを沢山聞かせて頂戴。しばらく入院しないといけないみたいだから暇なのよね。」
春子さんの束ねている長い髪が、笑うとさらさらと揺れた。本当に31歳の息子がいるようには見えない。見た目はお姉さんみたいだ。
「はい、伺います。美味しいお土産持って行きます。何がいいですか?甘いもの、果物、何でもリクエストしてください。」
「本当?嬉しいな。それじゃあね、甘いものがいいな。葵君がオススメのやつ。楽しみにしてるわね。」
来週の約束をしていると、先生達が帰ってきた。和樹さんの隣には、怖そうなお父さんが立っている。気難しそうに眉間にしわを寄せていた。
俺は思わず身構えた。
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