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──桜姫祭り。
北桜で毎年ある学園祭の恒例イベント。
一年から三年の各クラスから一人、女装して全校生徒の前で校内の一番を決める行事。しかも一人ずつ体育館に設置されたランウェイをモデルみたいに歩くらしい。何の得があるのか全く分からない。
そもそも誰がこんな企画考えたんだ! てか、男が女装なんかして盛り上がんのかよ……。緋結や菜由が出るならまだわかるけど。可愛いし。
……なのに、
『なんで俺が女装しなきゃいけないんだよ! しかも二回もっ』
『光栄って思うべきじゃない? 推薦してやってんだからさ』
く、そんな嬉しくない推薦っ……。ただ、俺が女装して似合わないってバカにしたいだけのくせに!
バチバチと林と岸田と睨み合っているとそれを見ていた木崎先生が口を開いた。
『埒が明かないぞ。お前ら』
(! 良かった、木崎先生の助け舟っ)
『だって未月が……』
『なら、多数決で決めたらどうだ?』
……え、多数決?
また嫌な予感がする俺を他所に、木崎先生は閃いたと言わんばかりに話を続ける。
『クラスの出し物は仕方ないとして、桜姫祭りは未月か他の生徒どっちかで多数決取ればいいだろ。他にもやりたい奴いるかもしれないしな』
いやいや、なんで俺だけ指名なんだよ! てか、やりたい奴いたら今頃立候補してる……。
『せ、先生っ……』
『さんせーい!』
『っ』
先生の名案に元気よく手を上げる林たちに他の生徒も賛同する。
(最悪! マジでっ)
もう既に確定した結果に俺は平伏すしかなかった。
「はぁ、最悪……」
HRの後、心の中で何度も思った言葉を口にする。
木崎先生、全然助け舟じゃなかった……。先生のせいではないけど、多数決は九割俺で一割、と言うか山本だけは他の奴に手を上げてくれた(そんな優しさに泣きそうになった)。
林と岸田が中心だったから仕方ないんだけどさ……。
でも、誰も俺の女装なんか見たくないだろ! いくらお笑い役でもっ。
(あー、マジでやりたくない!)
最後にはそこに辿り着く俺に、山本がぽんっと机に伏していた俺の頭を撫でてきた。
「そんな落ち込むなって。ただ歩けばいいだけだろ。女装で」
笑いながら言う山本にイラッとする。
他の奴に手を上げてくれたけど、絶対コイツも楽しんでるじゃん! と今更気付いてしまう。
「ならお前やれよっ」
「絶対無理。それに、ほぼクラス一致でお前だったし」
「そんなの、あの二人が中心だったからだろ! 誰も俺の女装なんて……」
そこまで言うと山本がいや、と口を開いた。
「そうでもないんじゃね? お前、意外と人気たけーよ」
「? なんだよ、人気って」
意味がわからなくて聞き返すと、山本の手が首に伸びてきて。絆創膏で隠した痕をなぞってくる。
「な、なにっ……」
それにビクッとしてしまって慌てて体を引いた。
「夏休み明けから雰囲気変わったのって、やっぱ彼氏の影響?」
「は、はぁ?」
再びとんでもないことを言われて変な声が出てしまった。
(またその話題かよ!)
「あれ? 本当にいねぇの?」
「いるわけないだろ!」
俺の反応にキョトンとする山本に全力で否定する。
「ふーん、てっきりいるかと思ったぜ。最近、風呂来ねぇし匂いも違うし」
「そ、それは……って、匂いってなんだよ。俺臭い?」
くんくんと自分の体を嗅ぐけど特にしない。唯一するのは制服に付いたアイツの香水が微かに香るだけ。
「じゃなくて、なんか高そうな香水の香りする。二学期始まってから思ってたけど」
「!?」
なんだとっ……!
「き、きき気のせいだろっ」
「……………………………………」
「……な、なんだよ?」
じとーっと見てくる山本に俺は何とか平静を保つ。
「……まぁ、そー言うことにしといてやるよ」
どう言う意味だよ!
「ほんとにいないからな!?」
「へいへい」
念を押すように言うけど軽く流されてしまう。
みんなして彼氏って!
「大体俺、女子が好き「未月くん」」
そんな会話をしていると町屋がやってきた。
「お話途中すいません。今、いいですか?」
「うん」
相変わらず丁寧に聞いてくる町屋に頷く。
「桜姫祭りなんですが、衣装は生徒会の方が準備してるので昼休みに生徒会室に行って下さい」
……うわぁぁ、現実が辛い……。もう既に逃避したい。
テンションがだだ下がりになるのを感じながらとりあえず返事を返す。
「あとエスコートはどうしますか?」
エスコート?
「何それ……」
「当日、一緒に行動する人です。何かあった時大変ですから」
「え、どー言う……?」
頭にハテナが浮かんだ時、町屋の背後から緋結が現れた。
「襲われたら大変だもん!」
「! びっくりさせないで下さい。立谷くん……」
そう言いつつも表情は至って冷静。全く驚いた様子がない学級委員長。
「ごめんねっ」
緋結が町屋に謝ると菜由もその隣にやってきた。
「ここ、男子校だから絶対いた方がいいよ。未月くん」
「ぇえ? 男子校だから安全なんじゃ……てか、襲われるって何?」
俺が聞くと二人は目を見合わせてからまた俺を見てきた。
「えっとね……、えっち、だよ」
……………………………………はい?
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