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「はぁ……」
結局、アイツの部屋に薬を届けに行くことになり……。保健室に向かう道中、何度目かの溜め息を吐き出す。
(ぅう、なんでこんなことにっ)
── 『きっと悠季くんの方が親しいだろうから』
さっきの伊咲先輩の言葉に頭を振る。
全っ然親しくないのに、早瀬も先輩も何見てそう思うんだよ……!
「もう最悪……」
告白も無しになったし、ついて行くのは憂鬱だったけど自由も遠のいてしまった。
(……まぁ、また今度って言ってたからいっか。にしても早瀬どこ行ったんだろ)
なんて思ってる内に一階の保健室に辿り着いた。
「失礼します」
「あら、未月くん」
ノックをしてから中に入ると千倉先生が机で作業をしていた。
「どうしたの?」
椅子から立ち上がって近付いて来た千倉先生から甘い香りがする。流木とは違って女の人って感じの。
「えっと、風邪薬もらいに来たんです」
「……風邪?」
「え!? うわっ」
急に屈んできた千倉先生が自分の額を俺の額に当ててくる。すぐに離れたけど、その一瞬で俺はパニクってしまう。
「熱はないみたいね」
「お、俺じゃないです!」
あったとしてもその計り方は絶対違う気がする! と言うか正確性の問題とか色々っ……。
動揺する俺に先生はなぜか楽しそうに笑う。
「キス、されると思ったのかしら?」
「~~っ」
俺の唇を人差し指で抑えながら言われて、顔がボンッと熱くなる。
「顔真っ赤よ。可愛いわね」
「か、からかわないで下さいっ」
「ふふ、しないわ。あなたにしたら首が飛ぶもの」
首が飛ぶ? なんかさっきから物騒な言葉を言われてる気がする。山本も殺されるとか言ってたし。
「で、誰の風邪薬?」
離れた千倉先生にほっとしながら、まだうるさい心臓を抑える。
「えっと、流木の、です……」
あまり言いたくない名前を言うと一瞬驚いた顔をされた。
「貴方たち、付き合うようになったの?」
「っ、違います! アイツが、熱出したから伊咲先輩に薬届けるの頼まれたんです。伊咲先輩は委員会で行けないし、幼馴染の緋結もダメって言うから、仕方なく……」
最後、溜め息を吐く俺に千倉先生は不憫ね、と呟いた。
「まぁ……あの子はラッキーでしょうけど」
「?」
よく聞こえなくて、聞き返そうとしたら棚から薬を取り出してきた千倉先生。それを袋に入れて手渡される。
「薬よ。解熱剤も入ってるわ」
「ありがとうございます!」
「……これから貴方一人で届けるの?」
「はい」
行きたくないですけどね……。と心の中で続ける。
「これ、一応していきなさい」
「あ、ありがとうございます」
そう言って手渡されたのはマスク。
(渡すだけだけど、伝染るかもだもんな)
マスクも袋に入れて保健室を出ようとした。
「そう言えば、桜姫祭り優勝したのよね。おめでとう」
ドアを開けようとした手が止まる。
(やっぱ先生も知ってっ……)
「……ありがとう、ござい、ます……」
語尾がどんどん小さくなってしまう。
マジで全く嬉しくない!
「可愛かったわよ。まさか流木くんと出るなんて思わなかったけど」
「あ、あれはなんか事故みたいなもんでっ……」
北桜の一大イベントもあって、先生たちが見るのも避けようがないけどそこだけは自分の意思じゃないと否定する。
「とにかく知名度も増したんだから、色々気をつけなさいな」
「……はい」
何を気をつけるのか聞くテンションでもなく、俺はものすごく重い足取りでアイツの部屋へと向かった。
────────────────────────
……あぁ、着いてしまった。
目の前には昨日、否今朝方ぶりの部屋のドア前。
(こうなったらさっさと渡して帰ろう!)
コイツの部屋の前にいるのも誰かに見られたらヤバいから、当たりを見渡して誰もいないことを確認した。それから、コンコンとノックする。
「……………………………………」
シーン……。
反応ない。え、いるよな?
もう一回長めにドアをノックしても物音すら聞こえてこない。
「マジかよ……」
寝てんのか? ドアノブに袋掛けとけば気付くかな……。
「…………………………」
なんて思ったけど、昨日のことを思い出すとただでさえ寒いのが苦手なアイツの体調が気になってしまう。
(自業自得だけど、一応俺が寒くないように自分の服かけてくれてたわけだし……。でもカギかかって入れな、あ! そう言えばっ)
いつでも返せるように流木の部屋の鍵をもっていたことを思い出す。
また使う日が来るなんて……(二回目)。以外と大活躍な鍵の存在に複雑な気持ちになりながらガチャリと鍵を回す。
「……お邪魔します」
小さい声で言ってから、一応中から鍵をかけておく。音が出ないように忍び足で中へと入る。
(あ、寝てる)
昼間だけどカーテンが締め切ってあるせいで薄暗い室内。
ドキドキしながらベッドに向かう。
「……流木?」
顔を覗き込むと普段は無表情な顔が辛そうに荒い息を吐いていた。しかも顔も真っ赤で。髪が額に張り付くほど汗かいてる。
なんか濡れタオルとかした方がいいのか? いや、でも薬置きに来ただけだし!
そんな葛藤を一人でしている時、俺はマスクをしてないことに気付く。
(せっかく先生がくれたのに!)
慌てて持っていた袋の中からガサゴソと取り出す。無事にマスクをつけ終わった後、寝ていたはずの流木と目があった。
「っ!?」
「何してんの、お前……」
驚く俺に流木は低い掠れた声で言うと、ゆっくり起き上がって。
「い、伊咲先輩に頼まれて薬届けに来ただけ! じゃあなっ」
薬が入ってる袋をテーブルに置いて、さっさと去ろうとした。
だけど、俺の名前を呼ぶ声に咳が混じって足が止まってしまう。
「……大丈夫、かよ」
恐る恐る振り返る。
「そう見えんの?」
ふっと笑って言う顔は、やっぱり辛そうで。帰ろうとしていた気持ちになぜか罪悪感が生まれてしまう。
(長居は禁物なのに)
俺はまた、足をベッドに戻していた。
「熱、何度あるんだよ」
「さぁ……知らね。体温計ないし」
確かに。なんて思いながらベッドに腰掛けて、流木の額に手を当てる。
「あつ!」
え、四十度くらいあるんじゃ、と思ってしまう。
「薬飲めよ! 解熱剤ももらってきたから」
あと水──、
「……悠季」
ベッドから下りて薬を準備しようとしたら伸びてきた腕に抱き締められてしまった。
「ちょっ、」
逃げようと体を引くけどビクともしない。熱もあるし体力ないはずなのに!
「何してんだよっ」
「るせぇよ。……お前、すぐどっか行くでしょ」
どっかって……。
そう言って強くなる腕の力。
(もしかしてコイツ、寂しかったり?)
風邪引くと人肌恋しくなるって言うし。
「………………………………」
耳元で聞こえる荒い息遣いに、俺は抵抗するのをやめた。
(はぁ、なんでこんな必死なんだよ……。一匹狼とか言われてるくせに)
「……ど、どこも行かねぇからっ。薬は飲めって!」
「…………ほんとに?」
「ほんと!」
「…………………………」
少し離れて、疑いの眼差しで見てくる流木。その潤んだ(多分風邪のせい)目と弱々しい表情や声にドキドキしてしまう。
(良かった、マスクしててっ)
マスク越しに赤くなる顔にそう思ってしまう。
やっと離れる流木に俺は立ち上がって、解熱剤と冷蔵庫からペットボトルの水を取り出して渡す。
「あと、なんか食べたいのある?」
冷蔵庫を見た限り飲み物しか入ってないし、部屋にも食べた形跡がない。
さすがに食欲なくてもなんか食べないと。
「……いらね」
そう思って聞いたのに解熱剤を飲んだ後、ベッドに倒れ込むように横になった。
「でも、なんか……あ!」
そうだ、確かこの時間寮の食堂使ってないから借りれるかも!
「ちょっと待ってろ!」
そんな閃きがおりてきて、俺は流木の俺の名前を呼ぶ声を無視して部屋を出た。
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