アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
6
-
「ありがと、父さん!」
「もしいなかったら連絡するんだぞ。学校まで送ってやるから」
「うんっ」
バタンと車のドアを閉めて、駅前の駐車場に向かう。携帯を見ると二十時半過ぎ。昼間よりは人も減っている中、周りを見渡しながら走る。
(確かここら辺……)
立ち止まって流木のバイクを探すけど見当たらない。停めてあるのは車ばっかりで。
「さすがに帰ったよな……」
そう呟いて父さんに電話しようと連絡先のフォルダを開いた時、背後に人の気配を感じた。
「未月」
「うわぁっ!?」
び、びっくりした! 変な声出たじゃんかよっ。
「い、いきなりなんだよ!」
振り返るとそこに居たのは流木で。いないと思ってたから尚更驚いた。
「煩い。帰るぜ、迷子」
「っ、迷子じゃない!」
背を向けてすたすたと歩いてく流木を慌てて追いかける。着いた場所はさっきいた駐車場とは真逆の場所だった。
(こっちだったのかよ……!)
ちゃんとコイツのバイクが停めて合ってヘルメットを渡される。
「? 乗れば」
渡されたヘルメットを両手に持ったまま、立ち尽くしてしまう俺にバイクに跨った流木が聞いてくる。
「えっと、お前、怒ってねぇの?」
五時間くらい、ずっと待たせてたのに声も雰囲気もそんな感じは一切なくて。
(絶対何か言われるかと思ってたのに)
気になって聞いたら流木はふっと笑った。
「何、怒って欲しかったわけ?」
「ち、違う! すげぇ待たせたからっ、その……!」
──ごめん。
ヘルメットをぎゅっと持ちながら、俯いてそう口にする。
(うぅ、なんか嫌だ! この空気っ)
タイミングがいいのか悪いのか周りには誰もいなくて、俺とコイツの間に沈黙が流れる。
「……未月、」
「なに……」
「こっち」
呼ばれるままバイクに跨っている流木の元に行くと手が伸びてきて。
「っわ、んん……!」
いきなり顔を引き寄せられると深く唇が重なってきた。不意打ち過ぎて逃げる余裕もなかった。
(こんなところでっ)
と思ってぎゅっと目を閉じる。その先を覚悟するけど、コイツはすぐに離れて代わりに俺の首筋に噛み付いてきやがった。痛い、地味に。
「な、なにすんだよっ」
噛んだ所を強く吸われた後、コイツは離れた。ジンジンと痛むそこを手で抑える。
「……あま。お前のせいで虫歯になりそう」
なっ、勝手にしたくせに!
言い返そうとしたらエンジンの音が響き渡る。
「置いてくけど」
流木の言葉に慌ててヘルメットを被って後ろに乗る。そこではっとした。
「父さんに連絡するからちょっと待って!」
メールで知り合い(友達では断じてないから)がいたと送って流木の腰に腕を回す。
「ちゃんと掴まってろよ」
「う、うん」
あぁ、やっぱりこの香りは好きだ……。
なんて思いながら来る時と同様に、背中に顔を押し付けた。
無事に寮に着いた頃には二十二時半を過ぎていて。山奥の北桜は真っ暗闇。
(街から一時間走っただけでこんなに違う……)
駐輪場のとこは外灯あったから良かったけど。
「着いたぜ」
バイクから下りて外したヘルメットを流木に渡す。
なんか、礼とか言った方いいよな? 無理矢理連れて行かされた挙句に荷物持ち(今も)だけど、今日母さんや父さんと過ごせたのコイツのお陰だし。
(それに、バカにされなかった)
今までされてきた事があるから良い奴、とは絶対思えない。
でも……、
「未月、何してんの」
先に数歩歩いてたいた流木が振り返ってくる。
「その、今日はあっ……」
意を決して言おうとしたら、携帯の着信音が鳴り響いた。
「……出れば?」
口を開けたまま止まる俺に流木が言ってくる。
(もう、誰だよっ)
ズボンのポッケから携帯を取り出すと〈母さん〉と表示が出ていた。
「もしもし」
『学校着いた?』
「うん。今日は、ありがと」
さっき流木に言うのは躊躇ってしまったけど、母さんにはすんなりと言えた。
『そんなのいいわよ。また帰って来なさい』
「分かった」
また来週帰ろうかなと思ってしまう。やっぱ家が好きと改めて感じた。
『あとお友達にもちゃんとお礼言うのよ。じゃあ、おやすみ。また電話するから』
「うん。おやすみ……」
って、今言おうとしてたんだよー! それに友達でもない! なんて電話が終わった携帯を見ながら思う。
「行くぞ」
「! あ、ちょっ、」
待ってと言う前に流木は寮の方へ歩いてく。俺はその背中をまた慌てて追いかけた。
あぁ、もう言える気がしない……。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
28 / 236