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闘いの記録と折れない心
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「ねぇ、未月。このプリントとノート、先生のとこに持っていって」
「っ……」
昼休みを告げるチャイムが鳴って、よし売店に行こう! と立ち上がろうとした時。机の上にドサドサッと冒頭の言葉と共にクラス分のプリントとノートが降ってきた。
「俺、今日日直じゃな「じゃあ頼んだから。よろしくねー」」
「あ、あと黒板消しも! ちゃんとキレイに消せよ」
追加注文して林と岸田、二人はさっさと教室を出て行った。
(またかよ。最悪……)
言い返す間もなく、俺は苛立ちより先にそんな自分に嫌気がさしてしまう。
「はぁ……」
とりあえず黒板消しに行こ。
他のクラスメイトが友達と集まって弁当やパンを取り出す中、俺は思い足取りで黒板に向かう。
あのピアス事件(俺が付けた)から数日、流木と同じ色のピアスが付いていると一気に広まった。一体どこでバレた? と言うかこの学校、噂広まんの早くね!?
その結果、アイツを好きな奴らからの嫌がらせはメールだけに留まらず……。身体的にも悪化した。最初は反論とかしてたけど結局最後は敵うわけもなく。
(同じ学年相手ならまだしも、先輩とかいるとどう足掻いてもこっちが不利になっちゃうし)
そもそも全部が誤解過ぎて泣けてくる。なんて言っても誰も信じてくれないけどね……!
そんな苛立ちを黒板にぶつけるように先生がみっちりと書いた文字を消していくけど。
(う、上の方が届かねぇっ)
背伸びをしてもギリ届かずに軽くジャンプしても無駄だった。そんな時、横から伸びてきた手が上に書かれた文字を消してくれた。
「また頼まれたのかよ。未月」
「山本!」
「仕方ねーから俺も手伝ってやるよ」
(うぅっ、良い奴!)
状況を察したのか、さっきのやり取りを見ていたのかそう言ってまだ半分あった文字や図を消していく。その姿に俺も手を動かした。
山本は同じクラスで昼休みにバスケやサッカーをしてる友達の一人。まぁ、同じクラスだから昼休み以外も一緒に過ごすこと多いんだけど(逆に緋結は林と岸田と仲良いんだよな)。
「お前、毎回あの二人の時頼まれてんな」
「あー、うん」
「やっぱ流木先輩絡み?」
その名前に黒板を消していた手が止まる。
(やっぱと言うか絶対、確実に、100%アイツのせい!)
「噂聞いて気になってたんだけどさ。付き合ってん「ない! それはマジでないからっ」」
続けざまに聞かれそうになった質問を速攻で否定する。
「お、おぅ。じゃあアイツらの早とちり?」
そうならいいんだけどなぁ……。そんな可愛いもんじゃない気がする。
「……まぁ、そんなとこ。俺は嫌いだから、あんな奴!」
残りの文字を勢いよく消した後、黒板消しを機械で綺麗にして、元の場所に置いた。消した時の粉で紺のセーターが白くなってしまった。
「何があったか知らんけど大変だな、お前。立谷に相談してみたら? 林たちと仲良いから何とかしてくれんじゃね?」
深く聞いてこない所が山本のいいとこだと、この時はいつも以上に感謝した。
「それは無理。緋結にとったら大事な友達だし。仲割くようなことできねぇよ」
アイツのことがなかったら普通に接してくれてた。他の先輩とも関わることなんてなかったし。そう振り返っても、今はもう前みたいにはいかないんだけど。
「まぁなー。アイツらも立谷がいない時にしかお前に強く当たらないもんな。それに、流木先輩が幼馴染ってのがデカい」
「? どー言う意味……」
山本も消し終わってブレザーに付いたチョークの粉を叩き落としながら、空いてる手を俺の肩に回してきた。黒板の方を向いて、内緒話するみたいに声を潜める。
「今、先輩フリーだろ? で、幼馴染の立谷と仲良くなれば間接的にでも接点持てるかもしんねーじゃん」
「ぇえ!? アイツと仲良くなりたいから緋結と仲良くしてるってこと?」
その考えはなかった!
驚く俺に山本はうーんと声を上げる。
「俺の予想だけどな。でも普通に考えてもそうならね? 先輩、倍率高いし。ある手は使わなきゃ勿体ないだろ」
……いや、そもそもそこ!
「アイツってそんなにいいの? どこがモテるのか全っっ然わからないんだけど!」
「んー、男から見てもカッコいいと思うけど恋愛対象ではない。俺、女子好きだし」
でも山奥の男子校だし、ワンナイトならありなんじゃん? とかとんでも発言する山本に〈無理〉の言葉しか頭に浮かばない。
「俺は絶対、死んでも無理!」
もう小声で話すことも忘れて、はっきりと口にして断言する。顔や見た目がよくても中身が大問題過ぎる。
「ははっ。まぁ、未月は嫌いでもモテるのは確かだから気をつけろよな」
バシンッと背中を叩かれて俺は深いため息を吐くしかできなかった。
気をつけろも何も、俺何もしてないのに……!
「はぁ……」
黒板消しを終えて、山本に礼を言ってからクラス分のプリントとノートを一階の教務室に運ぶ。手伝ってやるって山本が言ってくれたけど、さすがに申し訳なくて断った。せっかくの休憩時間減っちゃうし。
(それにしても、重い!)
ただの紙なのに、纏まるとこんなに重量増すのか。ゆっくりと階段を下りながら落とさないように手に力を入れる。
(こーいう時、教室が三階だと辛いっ)
北桜は三年間、同じ階だから二年、三年と上がっても変わらない。今年入学した俺たち一年は卒業するまで三階のまま。寮も同じ仕組みでずっと三階。今の三年生が卒業したら次の一年は一階になって、次は二階の教室になる。
(はぁ……。卒業するまで何回上り下りするんだろ)
「うぅ、前見えな……」
下りることに集中していると背後の人影に気付かなかった。せーの、って揃った声が聞こえた時には思いっきり背中を押されていて。
「!? う、わっ!」
そのまま中段くらいから床に転げ落ちた。咄嗟に体を庇うために右肩から落ちて、床に激突すると痛みが走る。
「いっ、た……」
「いこ!」
笑う声と一緒にそんな言葉が上の方から聞こえてきて、見上げた時にはバタバタと走り去ったあとだった。
(最悪……)
右肩と足首が痛い。頭打たなかっただけまだマシか……。そう思いながら散らばったプリントとノートに目を向ける。
「はぁ……」
(またアイツ絡みかよ)
今日何度目かの溜め息を吐きながら、そのわかり過ぎた原因に頭が痛くなる。
幸い周りには誰もいなくて安心した。まぁ、それも狙ってのことなんだろうけどさ。こんな姿見られたら惨めでどうしようもなくなる。
「……っ…………」
そうじゃなくてもなんで俺が、って思いながらさっきの教室でのことも脳内に思い返されて。襲ってくるのは苛立ちよりも悲しみと悔しさ。視界が滲む。それが溢れないように唇をぐっと噛み締めた。床に散らばったプリントとノートを一つずつ拾う。
「……何してんの」
「!?」
そんな時、頭上から聞こえてきた声にあからさまに肩がビクッとしてしまった。見なくても分かる。だから、無視して拾い続けた。
「………………………………」
どっか行くだろと思ったけど、コイツもしゃがんできてまだ散乱しているプリントやノートを拾ってきた時にはさすがに驚いて見上げてしまった。
「な、何して「それ、貸して」」
手伝わなくていいと言おうとしたらいつの間にか全部拾い上げていて。
(いや、早くね!?)
二重に驚く俺から持っていたノートとプリントを奪うと、軽々と持ち上げて立ち上がった。
「そこで待ってろ」
「あ、ちょっ……」
引き留めようとしたらスタスタと階段を下りて行ってしまった。立ち上がろうとしたけど足首の痛みで断念する。
「な、何なんだよ……!」
その後、他の先輩が階段を上がってきて不審な視線を浴びながら俺は隅の方に移動した。
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