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「はい。これでおわり!」
「ありがとうございます」
手際よく足首に包帯を巻かれて固定された。右肩も同様に処置してくれた先生に頭を下げる。
(なんか、すごい緊張した……)
千倉先生が美人ってのは噂で聞いてたけど、色々予想以上だった。小学校とか中学だともっと年配の人かおばあちゃんだったし。
(て言うか、こんな離れた山奥の男子高で危険な気もするけど……)
女の人って千倉先生しかいないし。緋結や山本は男子高だから我慢できないとかワンナイトならアリとか言ってたけど、それなら対象になるの同性より千倉先生なんじゃ……と思ってしまう。
「両足首捻っちゃってるから、歩くの辛いでしょうけど無理はしちゃダメよ。あと靴だと圧迫しちゃうからスリッパ貸してあげるわ」
「あ、はい」
痛々しく包帯が巻かれた足を先生が取り出してくれたスリッパに通す。それでもやっぱり痛い。
「未月くん、」
よし、教室に戻ろうと椅子から立ち上がろうとしたら、椅子ごと振り返ってきた千倉先生に名前を呼ばれた。
「次、何かあったり辛いと思ったらいつでもここに来なさい」
「え……」
真正面から真剣な表情で言われて俺はドキッとしてしまう。
(も、もしかして落とされたって、勘づかれてる?)
「それか、担任でも……未月くんのクラスだと誰かしら」
「えっと、木崎先生です」
「……あまり頼りにならないわね」
小さく息を吐きながら言う先生に苦笑してしまった。
「まぁ、そうね……あなたが話しやすい相手なら誰でもいいわ。一人で抱え込むのが、一番苦しいから」
(一人で……)
でも、そうそう言えないよなぁ……。
先生の言う通り、それが辛いのはわかってるけどそれが一番難しい。仮に言えたとしても相談したのがバレた時、もっと酷くなりそうだし。きっと相手はしてないって言うだろうし……。
(イジメ、までとは言わないだろうけどそうなった原因は俺にあるって言われそう……)
大体、内容が内容なだけに説明もできない。
「だ、大丈夫です! ほんとに踏み外して落ちただけだから」
とりあえずそう言って笑う。
コイツと関わらなきゃいいだけだもんな! そう思って隣に立ってる流木を横目で見上げる。
「……わかったわ。だけど体も、心も無理は禁物よ。それと授業始まっちゃってるから足首冷やすついでに休んで行きなさいな」
納得、と言うか言わない(言えない)俺に折れたのか先生はそれ以上何も言わなかった。
作ってくれた氷嚢を手渡されて、二つある内の一つのベッドに先生に支えられながら移動する。流木とは違うけど、すごくいい香りがした。
「靴、忘れないようにね」
袋に入れてくれた内履きを脱いだスリッパの隣に置かれる。
「ありがとうございます」
「じゃあ、私呼ばれてるからちょっと外すわね。ゆっくり休んでなさい」
そう言って先生はベッド周りのカーテンを閉めた。
「流木くん、あなたは戻るのよ。て言うか、一緒に出ましょう」
その先生の言葉に流木の返答はなかった。ドアの閉まる音がして、シーンと静かになる。
「はぁ……」
ぼふんと枕に頭を預けて横になる。足首に当てられた氷嚢がひんやりとして気持ちいい。
(なんで、こんなことになったんだ。マジで……)
白い天井を見上げながら思う。最初は楽しかったのに、今は中学の時より酷いかもしれない。
男同士(男女も)の恋愛なんて興味無いし、勝手にやってくれって感じだけどそんな事緋結たちの手前言えるわけがなく。
ならせめて巻き込まないで欲しい……のに、それはもう既に叶わない現実。
「……あー、もう寝よ!」
考えても仕方ないからぎゅっと目を瞑って頭まで布団を被った。
だけど、またガラッとドアが開く音がして。俺は布団から顔を出す。
(先生かな……)
「!?」
そう思って、いやそうであって欲しかったのに。カーテンが開いた先にいたのは流木だった。
「な、何しに来たんだよっ」
上半身を起き上がらせて目の前の敵に身構える。流木はチラッと氷嚢が置かれた俺の足首を見た後、
「お礼、まだ聞いてないんだけど」
なんて、ポッケに手を突っ込んだまま言ってきやがった。
(いや、マジでコイツ何様!?)
「……聞いてんの?」
「っ、聞いてる! なんっで、俺がお前に礼言わなきゃいけないんだよ!」
眉を寄せて近付いてくる流木に保健室と言うことも忘れて声を上げてしまう。誰もいないから良かったけど。
「なんで? ここまで運んで来てやったの誰だと思ってんだよ、バカ」
(運んで来てやった!?)
プラスバカ呼ばわりに今さっきまで傷心していた事も忘れるほど、イライラが一気に増す。
「お前が勝手に連れてきたんだろ! それに、こうなったのもお前のせいっ……」
そこまで言って俺は口を止める。だって、それをコイツに言ったらもっと惨めになりそうだったから。絶対鼻であっそ、とか言いそうだしな!
「と、とにかくもう出てけよ。お前、保健室使うの禁止されてんだろっ」
入った時の千倉先生の言葉を思い出して顔を逸らしながら言い放つ。
だけど、コイツが出て行くことはなかった。
「……じゃあ最後にこっち、〈処置〉してから出てってやるよ」
「っ!?」
ギシリとベッドに腰掛けてきた流木。同時に伸びてきた手は俺の下半身に被せてある布団の上を、撫でるように指先で触ってきて。
これが、最大の嫌がらせだと心の底から思いました。
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