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──ガツンッ、と言う鈍い音と一緒にバシャッと水がかかる音。
でも、なぜか痛みの衝撃はこなくて濡れた感触もない。後には笑う声と一緒に、走る足音が上の階から微かに聞こえてきた。
「……っ、なに……!」
降ってきたバケツには当たらなかった? けど、外壁に押し付けられた背中がジンジンと傷む。
ゆっくりと目を開けると人影が見えて。風にのってふんわりと香る匂いに、はっとして顔を上げた。
「え、流木!?」
「……るせぇよ」
そこにいた人物は俺の頭上の外壁に両手を置いて、上から覆い被さるように至近距離で立っていた。まるで、落ちてきたバケツから守ってくれたような……。
(って、絶対違ぇだろ! コイツがそんな、)
なんて全力否定を心の中でした時、下に落ちたバケツが風で動く。ぽたぽたと上から落ちてくる水滴に、それがコイツの濡れた髪からだと気付いた。しかも濡れてるのは髪だけじゃなく。制服のブレザーまで、濡れて色が濃くなっている。
「お前、忘れたわけ?」
「……え、」
壁から手を離した流木が溜め息と共に口にする。
「一人で行動すんなって言っただろーが」
(あ……!)
今日、保健室で言われたことを思い出す。
「あれ、冗談じゃっ……て、お前血出てる!」
コイツの右頬を赤い血が一筋伝って、反射的に俺から
距離を縮めてしまった。
(もしかしてさっきの鈍い音って、バケツがコイツの頭に当たった時の……)
「別に平気」
平気って!
特に痛がることもなくコイツは手で血を拭う。そこで、俺もそっかとかで済ませばよかったんだけど……。なぜかそれが出来ずに、気付いた時にはコイツの手首を握っていた。
「未月?」
「ほ、保健室! 行くぞっ」
「……は?」
「あっ、ちょっと待って!」
連れていく前に放置したゴミ袋が目に入って、流木の手首を離したら逆に引き戻された。
「いい。俺が行く」
「え、ちょっ……」
流木はそれだけ言うと、ゴミ袋を持ってスタスタと歩いて行ってしまった。その背中は前から見るよりずっとズブ濡れで。
季節はもう六月初め。今衣替え期間中だけどアイツはまだブレザーとセーターどっちも着てる。俺もセーターは着てるけど下は半袖。まぁ、体温高いからなんだけど。
(アイツ、体温低いもんな)
触ってくる指とかいつも冷たいし。
「……………………………………」
──いやいや! 別に心配してる訳じゃないけどっ。
ぶんぶんと頭を振って自分に言い聞かせてたら、戻ってきた流木に不審がられたのは言うまでもない。
────────────────────────
「失礼します」
「あら、未月くん。どうしたの? 足首痛む?」
ノックをして入ると中央に置かれたテーブルを挟んで椅子に座って話していた千倉先生と菜野先生がいた。菜野先生は寮担当の保健医の先生で、保健体育も教えてる。
「って、また流木くんと一緒? 仲良いわね」
「ち、違います! その、流木……先輩がケガして……」
呼び捨てにしようと思ったけど、一応先生の手前間を置いてから〈先輩〉を付け足した。
(なんだろう、伊咲先輩の時は普通に呼べるのに相手が変わるとこんなにも言いづらくなるのか……!)
「え、びしょ濡れじゃないですか! 流木くんっ」
俺の背後にいる流木に気付いた菜野先生が慌てた様子でタオルを準備してくれた。
「大丈夫ですか、って、血!?」
流木にタオルを手渡した菜野先生が、さっき頬に伝った血を拭った痕を見て驚く。
「お昼休みの時もそうだけど、一体何があったの?」
「え、ぇえっと……」
椅子から立ち上がって近付いてきた千倉先生に俺は俯いてしまう。
(なんて言ったらいい? 上からバケツ落とされましたって、本当のことを言う……?)
でも、そしたらきっと先生はその生徒に注意するだろうし……(誰かって聞かれてもわからないけど)。尚更先生にバラしただろって今より悪化しそう。なんて、ぐるぐると考えていたら流木が口を開いた。
「別に、なんでもない。コケただけ」
そう言って流木は髪を拭いたタオルを首にかける。
「はぁ……。あなた達ね、「どっちでもいいけど、コイツのこと寮まで送って」」
え?
何かを言おうとした千倉先生の言葉を遮って流木がそう言う。
「いや、俺一人で帰れっ……」
すかさず言い返したらなぜか睨まれた。なんでだよっ。
「あの……」
そんなやりとりを見ていた菜野先生が戸惑うように声をかけてきて。
「全く。菜野先生、寮まで未月くんのこと送ってくれるかしら。私は流木くんの手当てをするから」
「あ、はい! わかりました」
「………………………………」
千倉先生に言われて、背中に向けられる視線に気付かないまま、菜野先生と一緒に保健室を出る。
流木の傷が気になったけど、多分……大丈夫だよな?
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