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「鈴汰っ、待ってよ!」
(ぎ、ぎりぎりセーフ……!)
角を曲がってくる直前に、鍵が掛かっていなかった流木の部屋に逃げ込めた。
よかった、あいてて……。にしても不用心だな。俺も掛け忘れるから人のこと言えないけど。
状況を打破できて一安心しながらドアの向こう側から聞こえてくる声にあれ、と思う。
(聞いたことがあるような……)
「今日、約束してたじゃん! なんで一緒にいてくれないのっ?」
「……ヤる気分じゃねぇの。他の男にでも入れてもらえば?」
「そーいう意味じゃないよっ。僕は、鈴汰しか……!」
「……………………………………」
流木の冷めた口調に、切なそうに言葉を詰まらせる相手の人。
(なんでこんな奴がいいんだよ……)
と思いながら、その人の泣きそうな声にこっちまで苦しくなる。
「あっそ。俺はもう無理。部屋戻れよ、ウザい」
コイツ、マジで……! イラッとする言い方にさっきまでの心配が薄れていく。
「やっぱり、あの子と付き合ってるの?」
ん? あの子……?
その単語に耳をドアへ押し付けてしまう。
「……お前に関係ない。ただ、ソイツにこれ以上手出したら俺が許さねぇから」
「っ、」
息を飲む声がした。それに、俺も一瞬息が止まってしまう。
(てか、コイツ付き合ってる奴いんの? 否定しないってことは……)
それこそ俺にしたら関係ないし、どうでもいい事なのに──、
そこまで思っていたらガチャッとドアノブを引く音がした。
「!?」
や、ヤバい……! こんなとこで話聞いてる場合じゃなかった!
この状況を思い出して、俺は慌てて部屋に上がる。
「さすがにここは危険だよな……」
メインの部屋に隠れるのはやめて、とりあえず入り口に近いトイレに隠れた。
(鍵はいっか……。アイツが部屋に行ったらこっそり抜けだそ)
もうアイツの頭の怪我を気にしている余裕なんて一ミリもなかった。だって、勝手に部屋にいることがバレたらそれこそ殺される!
──ガチャ、
ドアの開く音に俺は声を潜める。
「待って! 鈴汰っ」
「るせぇよ」
流木の声が聞こえた後、バタンっとドアの閉まる音がした。
「はぁ……。クソ」
溜め息と一緒に呟かれる言葉とトイレの前を通り過ぎていく足音。
(部屋、行ったかな?)
ドキドキしながらトイレのドアに耳をさっきと同様に押し付けた、その時……。
「何してんの?」
「!! うわっ……」
いきなり開いたドアに、耳を押し付けていた俺は前のめりになって。誰か……否、流木の胸へ寄りかかるような格好になってしまった。
「な、なんでっ」
ばっと離れると、流木は呆れた眼差しで俺を見つめてくる。
着ている服は制服じゃなく、体操着の紺のジャージだった。
「お前ね、それ俺のセリフ。人の部屋で何してんだよ」
ゔ……ごもっとも過ぎて今日ばっかりは言い返せない。
「何もしてない! 声が聞こえたから、その……慌てて隠れただけでっ」
「……………………………………」
「その、ごめん……」
何も言わない流木に俯きながら謝る。
「えっと、じゃあ俺帰るから……!」
自ら入ったとは言え、嫌な記憶しかない場所に長居もしたくなく。目の前にいる流木の横を通り過ぎようとした。
が、案の定腕を掴まれてしまった。
「っ、なに!」
「なんで俺の部屋来たわけ?」
一番聞かれたくなかった質問をされて、俺はあからさまに目を逸らしてしまう。
(なんて誤魔化せばいいんだっ)
理由を考えてる間にコイツの顔が近付いてきて。
「……会いに来たんでしょ、俺に」
「〜〜っ!」
掴まれてる腕を引かれて、身を屈ませた流木はわざわざ耳元でそう言ってきた。しかも、どこか楽しそうな声。
「ち、違う! 勘違いすんなっ」
その腕を振り払って睨み上げるけど、コイツの表情は変わらず余裕たっぷりで。ムカつく!
「じゃあ、何。寂しくて一人で寝られなくなったとか? お前、ホームシック強そうだもんね」
「違うってば! てか、だったとしてもお前のとこになんて来ない!」
ホームシックって言葉にドキッとしたけど、図星をつかれたことがバレないように否定する。
(高校生にもなってとか、絶対バカにされそうだし……)
自分の意思で、山奥にある全寮制の北桜を選んだのに未だに寂しい気持ちが拭いきれていない。
(俺ってほんとダメな奴……)
って今は自己嫌悪に陥ってる場合じゃなくて! この状況を何とかしないとなのに。
「どうだか。なら、なんで来たの? 言わねぇと帰さないから」
「なっ……」
相変わらず狡い取り引きをしてくる目の前の魔王に唇を噛み締める。走って逃げようにもまた腕を掴まれてしまった。
「悠季、」
急かすように名前を呼ばれて、もう早く解放されるには結んだ口を開くしかなかった。
「…………あ、頭、大丈夫なのかよっ?」
「頭? お前よりはいいけど」
「違う! さっきの怪我っ」
意味を取り間違えられた上に、失礼なことを言ってくる流木に即言い返す。
「あぁ、平気」
「そっか……」
(そうだよな。千倉先生に手当てしてもらっただろうし)
「じゃあ、俺かえ、」
ちゃんと言ったからこれで帰れると思った。なのに、コイツは俺の腕を離すことはなく。寧ろ掴んでいる力が強くなる。
「お前、俺のこと心配で来たの?」
「っ、べ、別に心配してたわけじゃっ……」
否定しようとしたら、いきなり流木が空いてる方の手で頭を抑える。その表情は痛いのか辛そうで。
(やっぱり中の方まで傷が!?)
「大丈夫かよっ? 流木!」
俺の腕を離して、その場にしゃがみ込む流木に釣られてしゃがむ。慌てる俺の肩に寄りかかってくる流木に余計慌ててしまう。
(なんでさっきから距離が近いんだよ!)
「ちょっ……」
「い、って……。部屋まで連れてって、ゆう……」
「っー」
耳元で掠れた声に話されてゾクゾクと震えてしまう。距離が近いだけでこっちはいっぱいいっぱいなのに!
だけど、痛そうにしてる姿に突き放すこともできず。元々は俺を庇っての怪我だし。そう思ったら無下になんてできなかった。
「わ、わかったよ……!」
って、言うしかないじゃんか!!
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