アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
5
-
「うぅ、眠い……」
目を擦りながら昨日着ていた制服に着替える(パンツも)。学校行く前に部屋戻って新しいのに穿きかえよ……。
(はぁ、結局寝れなかった。そもそもコイツが変なことしてくるせい!)
恨みを込めながら隣で着替え終わった流木を睨むとちょうど目が合ってしまった。
「手、出して」
「手?」
言われるまま、右手を差し出すと掌に何かを置かれた。(鍵……?)
「なに、これ……」
「スペアキー。出る時必要だろ」
「なんで?」
俺が聞くと短く溜め息を吐かれた。
「また水引っ掛けられたいわけ?」
その言葉にはっとする。そっか、一緒に出て行くとこ見られたらヤバいからだ! 水引っ掛けられる所かもっと酷いことされそう(実際水引っ掛けられたのは流木だけど)。
でも、それなら……。
「俺、先出る。そしたら鍵いらないし」
返す必要もないしな。
だけど、返そうと流木に差し出したら背を向けられて。棚に置いてあった黒い瓶を手に取ると、セットされた髪の毛へ上方向に二、三回吹きかける。
「っ、」
その瞬間、いつもの香りが香ってきてドキッとしてしまった。
「ちゃんと閉めてこいよ」
「え、流木!」
「あと、返さなくていいから」
俺の呼び止める声を無視して、鞄を持つと早々に部屋を出て行った。
残されたのはまだ着替え途中の、鍵を握ったまま立ち尽くす間抜けな俺と、流木の残り香だけ。
「意味わかんねー……!」
返さなくていいってどう言う意味だよっ。俺からなんて絶対来ないって、昨日思い知ったばっかなのに。
「……はぁ、部屋戻ろ」
とりあえず、半ば強制的に渡された鍵をズボンのポッケに入れて、セーターを着る。適当にネクタイを結んでから俺も出て行こうとした。
「…………………………」
部屋を出る前、棚上に置かれた高級そうな黒い瓶が目に入る。それを手にとって見るけど、英語で書かれていて何の匂いかわからなかった。
(多分、香水だよな)
アイツも出て行って誰もいない部屋。一応周りを確認してからキャップを外した。
(少しだけ……)
そう思って、流木がしていたように髪の毛目掛けて深く三プッシュした。
「わっ、すげぇ匂い!」
髪の毛に近過ぎたかな!?
ふんわりくらいの香りをイメージしたのに、ガッツリ鼻を突き抜けるほどかけてしまった。
「……でも、嫌いじゃないかも」
自分から香る匂いをくんくん嗅いでいると時計の針が八時半を指してることに気が付いた。
「ヤバっ、遅刻する!」
まだ今日の準備してないのにっ。
それから慌てて流木の部屋を後にした(ちゃんと鍵は閉めた!)。
「あれ? 悠季くん」
「えっ、緋結……と、伊咲先輩っ」
部屋のドアを開けたら入り口に緋結と、その後ろに伊咲先輩がいてビックリした。
(あっ、そう言えば昨日緋結に連絡してない!)
帰って来なかったのを思い出して、謝ろうとしたら先に緋結が謝ってきて。
「昨日ごめんね! 帰るってラインしたのに、眞尋先輩の所泊まっちゃった……」
そう言って照れたように俯く緋結に俺は全力で顔を振る。
「い、いいよ! 別にっ。俺もいなかっ……」
って、バカ! 自分からいなかったことなんで言っちゃうんだよっ。
途中で思い出して言うのを中断したけど、もう手遅れだった。
「悠季くんもどこか行ってたの?」
「え、あっ、いや……!」
顔を上げた緋結に何て誤魔化そうか思考をフル回転させる。けど、その後とんでもないことを言われた。
「なんか、悠季くんいつもと香りちが……あっ、もしかしてれいちゃん!?」
「は!?」
がっと肩を掴まれて、くんくんと至近距離で匂いを嗅いでくる緋結に俺は冷や汗だらだら。そしてそこで後悔する羽目になった。アイツの香水をつけたことを!
(や、ヤバい! これじゃ、まるでアイツのとこ行ってましたって言ってるようなもん……)
いや、実際そうなんだけどっ。でも違うんだよ!
頭が混乱しながらそこで気付いてももう後には戻れず、目の前の緋結はなぜか目を輝かせていた。
「これ、れいちゃんと同じ香水の匂いだもん! れいちゃんの部屋行ってたんじゃない!?」
「ち、違う! アイツのとこなんて行くわけないだろっ」
「じゃあなんで? 他の人が買えるような香水じゃないよ。れいちゃんの、ブランド品で高いから」
ブランド品!? アイツ高校生のくせにそんな高いのつけてんのかよっ。
「悠季くん、れいちゃんと付き合ってるの?」
「っ……」
(なんでそうなるんだよー!)
心の中で叫びながら忌々しい名前を連呼する緋結に泣きそうになる。その言葉を否定しようとした時、緋結の後ろにいた伊咲先輩が口を開いた。
「緋結、誤解だよ。悠季くんのその香り、俺のせいなんだ」
「え!?」
(え!?)
口から出そうになった俺の心の声と緋結の声が重なる。
「どう言うこと? 眞尋先輩、この香水じゃないよね?」
伊咲先輩も香水つけてるのか……。確かにアイツとは違う、優しい香りがしてたけど。今の高校生って香水つけるのが普通なのだろうか……。なんて、俺に背を向けて伊咲先輩に聞いてる緋結を見ながら思う。その声はどこか不安気だった。
「この前、新しいの買った時試供品もらってね。鈴汰のとは違ったけど、似たような香りだったんだね」
そう言って俺を見る伊咲先輩に数秒遅れて頷いた。
(もしかして、伊咲先輩……)
「そうだったんだ。でもなんで悠季くんに? 二人で会ってたの……?」
「えっ、ちが……!」
って、ここで否定したらまたアイツとの関係怪しまれる!
だけど、今にも泣きそうな緋結の顔が俺と伊咲先輩を交互に見てきて。それが辛くて言うのを途中でやめてしまう。
(ど、どうしたらいいんだ! これ、絶対俺と伊咲先輩のこと疑ってるっ)
「会ってないよ。この前たまたま廊下で会って、鈴汰もいたから。その時、香水の話になって」
また手助け(口助け?)してくれた伊咲先輩に俺もまた頷く。
「そう! 俺が先輩たちからする香りいいなって言ったらくれたんだよっ」
「……ほんとに?」
「ほ、ほんと! 昨日、山本の部屋泊まって風呂入らないで寝ちゃったからさっ、臭うかなと思って貰った香水つけたんだよ!」
嘘つく罪悪感はあったけど、意外とすらすらと言えて安心した。そしたらやっと緋結の表情が笑顔になった。
「よかった……。疑ってごめんね?」
「そんな、緋結は悪くないよっ。紛らわしいこと言って俺の方こそごめん!」
「じゃあ、疑いも晴れたしそろそろ行こうか。遅刻するよ」
伊咲先輩の言葉に携帯を取り出して時間を見ると、八時四十分で。
(遅刻すると言うか、もう遅刻だよ! これっ)
「悠季くんも教科書取りにきたの?」
「え、あっ、うん! あと着替えとか……」
「じゃあ、待っててあげるね!」
(え!?)
「あ、ありがと! でも時間掛かりそうだから先行ってていいよ」
さすがに一人になりたくてやんわりと断る。それに、きっとお邪魔になりそうだし。
「えー、でも……」
「緋結。俺も、一限石屋先生だから早く行かないとなんだ」
「そうなの!?」
困ったように笑って言う伊咲先輩に緋結は驚いて、先輩の腕を掴む。
「ごめんね、悠季くん。眞尋先輩が怒られるの嫌だから先行くねっ」
ドタバタと出て行く緋結と伊咲先輩にほっと胸を撫で下ろす。やっと休める……と思った時、ガチャっとドアが開く音がして。
「悠季くん、」
え、伊咲先輩!?
振り返って、そこにいた人物に俺が驚きの声を上げるより先に屈んできた先輩。
「髪の毛、洗った方がいいよ。また目付けられちゃうだろうから」
「っ!?」
俺の毛先を掴んで至近距離で言われた言葉に心臓が止まるかと思った。王子様顔にもだけど!
「大浴場は今開いてないだろうから、〈部屋〉行ったら?」
──持ってるもんね。
何を? なんて聞く余裕もなかった。だって、その視線が流木の部屋のスペアキーが入ってる、ズボンの右ポケットを見ていたから。
「ふふ、じゃあ……またね」
それから緋結の伊咲先輩を呼ぶ声が聞こえてきて、伊咲先輩は出て行った。
パタン、と閉まるドアに俺はその場に座り込む。
「な、何なんだよ! あの人っ……」
超能力者かなんか? それとも透視能力があるとか……。
あぁ……もう、どっちにしても怖過ぎだろ(アイツとは違った意味で)!
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
47 / 236