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露店が立ち並ぶ中を歩くと色んなお店が出ていて。ただ歩いてるだけでテンションが上がる。
(最初はどうなるか不安しかなかったけど。コイツもいるし)
チラリと少し前を歩く流木の背中を見上げる。
……まぁ、関わらなければいいんだよな!
周りがガヤガヤとうるさいせいか、沈黙でもそんなに気にならない。前を歩いてる緋結と伊咲先輩は腕を組みながら楽しそうに会話してる。
「……………………………………」
それにしても、絶対昨日マネキンが着てたヤツだよな。この浴衣。
(……コイツも同じとこで買ったとか?)
なんて考えながらじっと見てしまう。後ろから見ても様になってるのがムカつく。正面から見たら尚更なんだけどさ。
(俺も身長があれば……)
──ぼふっ。
「っ、な、なに……!」
いきなり立ち止まった流木の背中に思いっきりぶつかってしまった。
「急に止まんなよっ」
「ちゃんといたね。迷子になんなよ」
はぁ!?
振り返って何を言うかと思ったらそんなことを言ってきやがった。
マジでムカつく! 一個しか変わらないのにこの子供扱い何なんだよっ。
「なら、俺が先歩く!」
そう言って行き交う人の中、流木の横を通り過ぎようとした。
「そこの兄ちゃんたち、冷やしパインどう!?」
「え……」
なんて声が聞こえてきて、横を見るとおじさんが手招きしていた。
(冷やしパイン、美味そう!)
ずらっと店先に並べられた串に刺さったパインに生唾が出てくる。
暑くて喉も乾いたし、何より露店で色々食べようと思って、何も食べてこなかったから尚更食いたい。
買おっかな、そう思って足を向けていた。
「えっと、じゃあ一本下さい」
「そっちの兄ちゃんは?」
おじさんが俺の背後に視線を上げる。隣を見たらなぜか流木もいた。なのに、
「俺はいい」
なんて断りやがった! じゃあ来んなよって言葉を飲み込みながら財布を取り出そうとした所で、浴衣と一緒に買ってもらった巾着袋を持っていないことに今更気付く。
(──はっ、車に忘れたんだ!)
や、ヤバい……! どうしようっ。
「……兄ちゃん? 一本二百円だぞ」
固まる俺(今日二度目)におじさんが声を掛けてくる。
「あ、あの、すいま「二百円」」
えっ!?
「ほらよ、冷やしパイン! ありがとな」
「え、あ、ありがとうございます……」
おじさんに断わろうとしたら隣にいた流木が袖の袂から財布を取り出して、突っ込む間もなく二百円をおじさんに手渡す。代わりに冷やしパインを渡された。
そしてさっさとその場を後にする流木の背中を慌てて追いかける。
(なんでコイツっ……)
「りゅ、流木!」
ぎゅっと袖の浴衣を握って引き止める。
「……何」
「あ、いや、さっきのお金……」
──ドンッ、
「っ、すいません……」
人混みの行き交う中止まったせいか、肩にぶつかられてすれ違い様舌打ちされてしまった。
(うぅ……なんかもう、散々だよ! 楽しみにしてたのに)
「こっち、」
「わっ」
そんな気まずい空気の中、今度は流木が俺の腕を引いて歩き出す。人混みから反れた脇の道沿いに出ると腕を離された。
「財布忘れたんでしょ、お前」
「! な、なんで知って……」
俺が聞くと飽きれたように息を吐かれた。
「バカ。気付かないとでも思ったわけ?」
(うっ……)
流木の言葉にガクリと肩を落とす俺。もう帰ろうかなと思ったけど、携帯も巾着袋の中だからそれすら無理で。
(とりあえず二十一時に入り口の下ろした所で待ってるって、父さんと口約束してたからまだ良かった……)
それにしてもこれからどうしようかと考えていると流木が口を開いた。
「金なら俺が出してやるから、行くぞ」
「え!?」
とんでもない提案をして、露店の人混みにまた向かおうとする流木の腕を再度掴んで止める。
(だって、さすがにそれはっ……)
今までよりずっと比べものにならない物を要求されそうな気がする!
「い、いいよ! そこまでしなくてっ」
これ以上コイツに借りを作るのも嫌でそう言うけど……。
「腹減ってんじゃねぇの?」
「……減って、」
ない、と言おうとしたらぐううぅっと盛大に腹の音が鳴った。ガヤガヤと騒がしい中でもちゃんと聞こえると言う。
「別に、お前より金あるから平気。それ食ったら行くぞ」
俺の持ってるパインを見て再度言われる。
なんか失礼な言い方だな!
「…………お、お金は夏休み終わったら返す! だ、だから、変なことすんなよっ」
せっかく来たんだし、こうなったら楽しもうと思ってそれだけ伝えた。
(ちゃんと返せば借りにはならないしっ)
「じゃあ、始業式終わったら旧体育館ね」
旧体育館……?
疑問に思ったけど、校内で会ったら周りの目があるからかと思って頷く。
って、そんなことよりもパインの果汁が手を伝って垂れていて慌てて口に運んだ。
「んっ……」
(うまーっ)
冷たいパインの甘い味に口が進む。それを流木がじっと見てきて。
「……お前も食べる?」
「………………………………」
食べたいのかと思って、食べかけのパインを差し出すと俺の手を引き寄せて齧り付いてきた。
(あ、間接キっ……)
何も考えずに聞いてしまったけど、俺の食べかけを口にする流木にふとそう思ってしまって。急に恥ずかしくなって頭を振った。
コイツは何にも思ってなさそうだけど。
「美味いだろ?」
「まぁ……。初めて食った割りには」
「え、初めて!?」
緋結が地元ってことは、幼馴染だしコイツも地元なはず。
「こっちにいた時祭り来てなかったのかよ?」
「……アイツが煩いから来てただけで祭り自体に興味ねぇから」
アイツって緋結のことか。て言うか、その言葉に深く納得。率先してイベント事とか行くタイプじゃなさそう。寧ろ嫌いなタイプ。
「お前は好きそうだな」
ふっと笑う流木にドキッと心臓が跳ねる。
(って、ドキッとする場面じゃないだろ! バカ!)
「だ、だって美味いじゃん。色々食べれるし」
「……確かにね」
シャクっ。
「あっ! もう食うなよ!」
俺が目を逸らした隙に、今度はさっきより大きい一口でパインを食べられてしまう。パインに刺さってる棒が半分以上見えるくらい。しかも俺の手を掴んだまま。
「お前見てると食いたくなんの」
「ひっ……」
手に付いたパインの果汁まで舐められて、変な声が出てしまった。
「な、何すんだよっ」
「さっさと食えば。俺に、食われたくなかったら」
「っ……」
意味深な視線を向けられて背筋が震える。
(食いたいなら買ってくればいいのに!)
そう思いながら、コイツに食われるより早く、残りのパインを口に頬ばった。
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