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私(73)
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ふと、ページを捲る指が止まります。
先生の作品の次に載っていた作品の表題が「白百合」だったからです。
最初に流し読みした時には気付きませんでしたが、この作品は、一人の少女を百合に例え、狂おしいまでにその魅力を語っております。
何も知らない時に読んでも、不気味だと感じてしまいました。
しかし、改めて読むと、これがユリオの事ではないかと思えます。
いえ―読み直して確信しました。
きっとこの方が、先生の仰っていた、男色家のご友人で、ユリオと愛人関係にあった人なのでしょう。
作者を見ましたが、見聞きした覚えのない名前でした。
体裁を考慮し、対象を女性に置き換えている様ですが、この白百合を読む限りでは、狂気にも似た執着が見て取れます。
それならば何故、ユリオを手放したのか、何故、ここに来た時、ユリオはあんな浮浪児の様な姿だったのか謎は深まるばかりです。
「…う…ん…」
微かに聞こえた声に、私はハッと顔を上げました。
横たわるユリオが少し苦しそうに、眉間に皺を寄せています。
熱に魘されて、助けを求める様にユリオは手を伸ばしました。
静かに寄り添い、私はその手を握ります。
すると、ユリオの表情が解ける様に柔らかくなりました。
私の手をきつく握り返し、一言
「先生…」
と言ったのです。
私は、鼓動が早まるのを感じました。
「その先生は、私の師の事か…それとも、白百合の先生か…」
震える声で、問いかけてみましたが、返ってきたのは静かな寝息だけでした。
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