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約束 3
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無理矢理切った携帯電話が気がかるのか、暫く斎は画面を見つめている。
すると痺れをきかせた女性が急かすように声を掛けると斎はその人の元に駆け寄った。
細い腕が斎の腕に絡み付く。
にこりと微笑み合う二人は羨ましいほどお似合いで、凪は目を背けたくなった。
凪の頭のなかは突然のことにぐちゃぐちゃで、どれから考えていいのかわからない。
それでも胸の痛みは強く主張する。
自分との約束を優先してくれる、とどこか期待していた気持ちも見事に砕け散った。
そんなことを期待した自分が愚かで恥ずかしい。
やはり、斎にとっては俺は遊びでしかなくて、あの時抱いたのも単なる斎の気まぐれだったのだろうか。
凪を揺さぶった甘い言葉も、全て。
どこかへ去っていく、どう見たってお似合いとしか言いようがない二人の背中を見送った。
凪は心にぽっかりと穴が開いたような、そんな気分で下を俯く。
突然ぽたり、とアスファルトに雫が落ちると黒いシミを作る。
雨かな、とどこか他人事のように考えては自分の瞳が熱く、ぼやける視界に涙なんだと気づいた。
―――なんで涙なんか…
涙が出たことによって斎への感情が一気に溢れだしてくる。
優しく撫でてくれるあの大きな手。
冷たく見えるが実は温かな瞳。
二重人格だけど俺には本当の姿を見せてくれるところ。
ここまで考えて、斎が好きだったのだと、ようやく自覚できた。
それを知ったのはいいが、この斎への恋心は呆気なく終わりを迎えることになるというのが、何だかとても悲しくて、切なかった。
この気持ちを認めた途端、止めどなく涙が溢れてくる。
激しく痛む胸の痛みは、斎に対する感情の重みだったのかもしれない。
それほどいつの間にか斎のことが好きになっていたのだ。
自分でも気づかないうちに。
こんなに誰かを好きになったことも、こんなに悲しくなったことも、同時に経験することになるなんて考えたこともなかった。
ぽつり、ぽつりと自分の涙以外のものが乾ききったアスファルトにシミを作っていく。
曇り空だった天気がとうとう雨を降らす。
徐々に真っ黒に染まっていくアスファルトは、まるで凪の心を映しているようだった。
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