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「お疲れ様でした」
嘘の笑顔を貼りつけた男と目があった。
「もう終わりなのか?全然痛くなかったけど…」
「当たり前だろう、俺が診てやってるんだからな。汚かった奥歯は治療した」
小馬鹿にした言い種で吐き捨てる男を見て、俺は少々苛立ちを覚えながらも、正直なところ、感心していた。というのも、あれだけ歯が痛むということは、それなりに歯が蝕まれていたはずなのに、治療されていることを忘れるほど、痛みがなかったからだ。
相も変わらず腹が立つ医者だが、腕は確かなようだ。
いままで歯医者に対して悪い概念を持っていたが、少し覆されたような気がした。
何だか癪だけれど、仕方ないから通ってやってもいいかな。
そう、思った。
すっかり暗くなった窓の外を眺めながら、受付で名前を呼ばれるのを待っていた。
それにしても、今日は散々な日だった。歯医者で男とキスするなんて、最悪どころの話じゃない。こんなこと口が裂けても祐也には言えない。きっと馬鹿にされるに決まっている。この事はもう、忘れよう。
「由川さん」そう呼ばれて、受付で会計を済ませた。次の来院予定の調整をしてから、玄関へと向かう。
十一月中旬だというのに、真冬のようにひんやりとしていた。びゅう、と、木枯らしが吹くと、扉がカタカタと揺れる。
「うわ、寒そうだな…」
昼間は暖かかったので、薄手のアウターにしたが、失敗だった。腕を擦り、ジャケットのジッパーを上まで閉めた。
下駄箱からスニーカーを取り出し、スリッパを直す。
これから待ち受ける寒さに備えて、気合を入れると、重い扉に手を掛けた。その時。
突然、ぐい、と腕を引かれた。
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