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奪還
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すぐに立ち上がれないため隆之の顔を仰ぎ見る。
「隆之!二宮くん止めて!」
すると隆之からも不穏なオーラが出ていた。
歩は気付かなかったが頬の傷と首筋に散らばる紅の痕、乱れた服を見た瞬間から隆之の纏う空気が数度下がっていた。
「止める?そんな必要はない」
銀縁の眼鏡の奥は底知れぬ程冷えきっている。
歩でも背筋が凍る。
「むしろ二度と世間に顔向けできないような顔にしてしまえ。
歩を傷付けたことは万死に値する」
「…松本…鬼すぎるよ…」
それを聞いたマキは歩に関して隆之を怒らせてはいけないとこの時悟った。
埒があかないので歩は赤ん坊のようにハイハイして二宮の背中にしがみつく。
すると二宮は拳を上げたままピタリと固まった。
夏の陽射しのような熱を帯びた広い背中に不謹慎にもドキドキする。
背中からもトクトクと二宮の鼓動が聞こえる。
そのリズムでさえも愛しく感じながらぎゅっと二宮の腹に腕をまわした。
「僕は大丈夫だからもうやめて」
それはまるで魔法の呪文のように二宮の心を落ち着かせて拳を下ろさせた。
歩は大人しくなった二宮から手を離し、また床に這いつくばって亮一に近付く。
二宮がどいても亮一は床に仰向けに寝たまま起きようとしない。
浅く呼吸を繰返し天井の一点を見つめたままだ。
「亮一さん…」
歩が呼ぶとピクリと肩が跳ねた。
顔を覗くと鼻血やら口の中の切れた血やらで血だらけで歩は顔をしかめた。
「好きになってくれてありがとうございます」
歩は床におでこがつきそうなくらい深々と頭を下げた。
二宮の言葉を真似たつもりはないが自然と同じ言葉が出てきていた。
「ぼくには好きな人がいるからあなたの気持ちには応えられません。
ごめんなさい
こんな虚しいやり方じゃなくて
…ちゃんと心から好きになれる人、見つけて幸せになってください」
返事はない。
反応のない亮一が聴いてくれているかは分からないが それじゃあ、と勝手に話を終わらせぺこりと頭を下げる。
まだ少し震える足を無理矢理立たせると隆之がすぐに腕を持ち、自分の肩に回す。
歩は背中に二宮の視線を感じたが気付かないようにした。
振られたのに未練がましく好きな人がいるなどと言ってしまった。恥ずかしくて顔が見れなかった。
隆之に支えられた歩がリビングを出ようとしていたのでマキや二宮も後に続く。
「歩くんは…歩くんは俺の運命の人なんだぞ!!」
亮一の怒鳴り声に歩が振り返る。
その表情はいつもの好青年のものとは違い幼いものだった。
どうしても欲しいオモチャを買ってもらえなかった子どものうらめしそうなそれに似ていた。
「……はい。亮一さんがそう思うなら運命の人かもしれないですね」
歩の発言は周りをギョッとさせたが本人は構わず言葉を続ける。
「でも運命の相手と結ばれるとは限らないですよね。
ぼくは亮一さんが想うように亮一さんのことを想えません
恋愛って思い通りにならなかったり甘かったり苦かったり、
そんな繰り返しなんじゃないですか?
でも亮一さんの次の恋愛が甘くなるようにぼくは祈ってます」
「好きなんだ!!次なんて考えられない!」
なおも亮一は食い下がる。
何も着飾らないその姿はもはや裸の王様だった。
「ごめんなさい」
呆然とする亮一にもう一度頭を下げて今度こそ部屋を出ていった。
遥だけはそこに留まる。
◇◆◇◆
歩達が亮一のマンションを出て少しして遥が出てきた。
赤くなった右手を庇いながらもその表情はスッキリしていた。
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