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初恋の行方
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数日後――――
歩と隆之は地元の花火大会に来ていた。
沿道は既に露店で埋まっていて河川敷にはブルーシートで場所取りしている人の群れ。
たこ焼き、焼きそば、りんご飴に最近は多国籍料理の露店まで出ている。
湯気や煙が風に乗って食欲をそそる匂いが鼻腔に広がる。
カランコロンと下駄を鳴らしとてとてと横で歩く歩はやはり人混みの中でも目立つ。
控え目に刺繍が施してある紺色の浴衣が白い肌によく似合う。
この絶世の美少年に行き交う人は目を奪われて振り返った。
細く頼りない首筋が艶かしく、うなじからは男達を引き寄せる芳香が漂っている。
本人は殺人的な自分の魅了に気付くことなく露店の多さに目を奪われどの店に行こうかきょろきょろ落ち着かない。
周りへの牽制も兼ね、隆之は細く長い華奢な指先に自分の指を絡める。
その行動に首を傾げる歩に微笑しながら「迷子にならないように」と答えてやると一気にぷうと頬を膨らませて睨まれる。
しかし繋がれた手は離されることはない。
いとおしそうに歩を見詰める隆之。
「……できれば俺の手で守ってやりたかったな」
花火前に買い出しをする客たちで賑わう沿道では隆之の声は掻き消された。
「えっ?隆之何か言った?」
愛くるしい笑顔が向けられる。
「もう遥の元彼氏からちょっかい出されてないか?」
隆之は話題をさりげなく変えた。
「うん。なんか遥のトドメの一発が効いたんじゃないかって遥は言ってたけど」
あの日―――部屋に一人残った遥は血だらけの亮一にさらにビンタをお見舞いし、別れ話を切り出された時には言えなかった罵声を浴びせて帰ってきたらしい。
だが歩はそれだけではない気がした。
それは殴られていた亮一を涙ぐんで見詰めていた横顔を見てしまったから。
ちゃんと亮一が納得するような話をしてくれたのだろう。
歩が思いを巡らせる中、隆之もまたあの日のことを思い出していた。
マンションの他の住人に玄関ホールのオートロックを開けてもらい、先頭きって部屋に向かう二宮の余裕のない横顔。
いつも仲間内で屈託なく笑う姿しか見ていなかったからあれには少々驚いた。
アイツも本気か…と気付いた瞬間だった。
亮一の先日の蛮行に隆之も怒りはしたが理解できないこともない。
自分も何度か歩を独占欲から自宅に閉じ込めておきたいと思ったことがある。
そのまま他の人間の目につかないように閉じ込めておきたいと。
実行こそしなかったものの同類だ。
黙りこむ隆之は自然と絡めた指に力が入っていた。
気付いた歩が「どうしたの?」と不思議そうな顔をしている。
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